生きる  
2012.06.28.Thu / 20:32 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。







たとえ、誰に理解されなくても、
たとえ、ほんの一部の人間にしか賞賛されなくとも、
たとえ、その最後を看取る人がいなくても、
人は幸せと満足のうちに、その人生を終えることができる。

胃がんを宣告された男。
死期が迫っていること以上に彼が不幸だったことは、
彼が自分自身に語るべき自分の人生を持っていなかったこと。

役所に、たてつきたかったわけではない。
ただ、人生に満足して死にたかった。
その為だけに、自分ができることを、そして、
自分が見つけた自分の生き方を、最後まで精一杯やり遂げた男。
自分が満足できる生きかたとはなんなのか?
そんなことを問いかける映画。


映画が扱う重いテーマ。
普通に描けば、当たり前のこと、と思われてしまったのかもしれない。
しかし、志村喬さんの全身全霊を込めた演技が、
この映画に大きな説得力と感動を与えている。
本当に素晴らしい役者であるとあらためて感じた。




市役所の市民課で課長を務める、渡辺さん。
彼は意識してはいないのかもしれないが、
死ぬまでの時間を多忙のふりをして無為に過ごしている男。
しかし、胃がんという死刑宣告をされてしまう。
息子の為に懸命に生きてきた。
けれど、運命の悪戯の為なのか、息子に本当の事を告げる機会を失い、
誤解のままに、拒絶されてしまう。

メフィストフェレスの案内で夜の繁華街に繰り出した。
酒を飲み、女性と踊っていれば一時は胃がんのことを忘れられる。
けれど、渡辺さんが探している回答は見つからない。

職場を退職した、まだ若くて生きる力に溢れている小田切さん。
小田切さんと居ると最初のうちは確かに楽しかった。
しかし、同じことの繰り返しの中、次第に、その楽しさは失われてゆく。

けれど、小田切さんが発した言葉に渡辺さんは捜し求めていた答えを見つける。


この映画の冒頭、胃がんを見つける前の渡辺さんを、この映画では、
死骸も同然だ、20年ほど前から死んでしまったのである、と評している。
けれど、私には、そのようには思えない。
なぜなら、妻が亡くなった後、立派に息子を育てあげたからだ。

それならば、もし仮に生きている間に息子と和解ができたのであれば、、
果たして渡辺さんは、公園造りに打ち込まず、
現状に満足して安らかな死を迎えることができただろうか?
私には、それも違うように思える。

子供を一人前に育てたということは、立派に生きた、と言えるだろう。
美味しいご飯を食べたり、綺麗な女性と時を過ごしたり、
歓楽街で遊びまくったり、見知らぬ土地を旅行したりして、
人生を楽しむのも、一つの生き方だ。

しかし、渡辺さんの胸のつかえは、それらでは無くならなかった。
30年間無欠勤で働いた。多分、
人生におけるもっとも多くの時間をそこに費やした。
しかし自分は一体何をしてきたのか?
その答えが見つからなければ、死ぬに死ねない。
それは、とても真面目な気質を持った渡辺さんならではの疑問なのだろう。

公園を造る事を決意した渡辺さん。
それは、渡辺さんが見つけ出した、生きるということに対する答え。
けれど、これは渡辺さん自身の答えであり、万人に対する答えではない。
重要なのは、自身の生き方について、真摯に悩み問いかけ続け、
自分が満足できる、自分自身の生き方を見つけ出すということなのだろう。
人目もはばからず、小田切さんの気味悪そうに自分を見つめる目にもかかわらず、
小田切さんに向けた渡辺さんのすがるような眼差しが、とても印象的だ。


お通夜に集まった人々。
彼らは渡辺さんを理解してはいない、理解できない。
なぜなら、彼らは自身の生き方について真剣に悩んでいないからだ。
だから、感動的な生き方を見せられると、酔いも手伝い簡単に心が傾いてしまった。
けれど、すぐに忘れてしまう。
それは自分の生き方を見つけ出していないからだ。


ただ、人生に満足して死にたかった渡辺さん。
無意識のうちに、そして、とても愚直に、自身の生き方を追い求め、見つけ出し、
それを成し遂げることができた。そして迎える幸せな最後。
誰からも理解されない。一部の人にしか賛辞されない。そして、とても孤独。
しかし、そのようなことを超えたところに人生の満足と幸せは存在する。
渡辺さんはきっと、その時に思ったことだろう。自分は生きたんだと。

あえて困難な道を選んだ。
しかし、その困難さが渡辺さんの人生を光り輝くものにしてくれてた。
そして、幸せそうに逝った渡辺さん。志村喬さんの名演技もあって、それはとても美しい。
死ぬのであれば、あのように死にたい。
そう思わせる説得力が、画面から、にじみ出ている。

自身の生き方を見つけ、満足のうちに最後を迎えた男。
自分が満足できる生きかたとはなんなのか?
そんなことを問いかける映画。




蛇足:
自分の満足の為に、結果として役所の縄張りを荒らしてしまった。
けれど、そうしなければ人が幸せになれないのであれば、、
この映画はお役所等を非難した映画ではない。
そして、そのような非生産性な役職にしがみつき、
その体制維持に一役買ってしまった渡辺さんにも非があったのかもしれない。
けれど、個人に幸せな生き方を与えることができない組織には、
渡辺さんをエゴイストと非難するより先に、
改善すべき余地もあるのではないかと思える。
* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
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