サラエボ,希望の街角  
2012.08.30.Thu / 12:04 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。

戦争からすでに10余年が経過した、サラエボの街。
街は美しく復興し、そこには戦争の傷あとは見えない。
しかし、そこに住んでいる人々の心の奥底には、
戦争の傷が未だに癒えることなく残されている。

心の傷を隠しながら生活を共にする男と女。
隠しても痛む心の傷ゆえに、
男は酒に逃避し、女は過去に心を閉ざしてきた。
しかし、傷はなくならない。

心の傷を癒すために彼らが選んだ選択。
男は宗教を選び、女は過去に向き合った。
しかし、その選択ゆえに、
別々な人生を歩む結果となってしまった二人。

戦争の痛みは、お互いに対する愛情だけでは、
乗り越えることができなかったのか?
別れなければ、それぞれの道を進むことができないのか。
それほどまでに重い戦争の傷。
けれど彼女は生きてゆく。
戦争の痛みの重さ、しかし、それでも生きてゆく彼女の強さが印象的な映画。




戦争から15年経過したサラエボの街。
映画で映し出される街はとても美しい。
そこからは内戦の面影など、少しも感じない。

サラエボに暮らすカップル、ルナとアマル。
楽しそうに、幸せそうに暮らす二人。
しかし、感じてしまう違和感。
それはアマルが何かを心の底に隠しているから。
携帯電話の料金滞納や、業務中の飲酒。
それらはアマルが戦争で受けた心の傷故なのだろう。
しかし、アマルはルナに打ち明けない。
あいまいな言い訳で本心を語ろうとはしていない。
そして、酒に逃げ酒に溺れる。
じつは、それは、ルナも同じだ。
祖母が語る悲惨な過去。しかしルナは、その過去に目を背けている。
だからこそ、アマルも自身の気持ちを告げることができないのだろう。
過去に目を背けている人間に、戦争のことは話せない。
アマルは、幸せな生活の中にも、そんな不満をもかかえていたように感じられる。

偶然出会った旧友。それをきっかけにイスラム原理主義にのめりこんでゆくアマル。
アマルにとっては、そこは唯一自身を癒してくれる場所。
ルナは必死にアマルを理解しようとするが、すれ違う心は元には戻らない。

ルナはきっと愛するアマルとの幸せな生活を夢見ていたのだろう。
しかし、イスラム原理主義は男と女を隔て、差別する。
だから、そこには彼女の求める幸せはないのだろう。

アマルのことがきっかけで過去を見つめる決意をしたルナ。
自分が住んでいた家には別な家族が暮らしている。
祖母のバラの花も無残に枯れていた。
近くに居た幼い娘がルナに問う、なぜ、この家を出て行ったのか、と。
その子はルナの昔の家を自分の家だという娘。
もしかしたら自分を追い出し母親を殺した人々と関係がある子供かもしれない。
怒りと悲しみに駆られ、その娘に真実を語ることは容易い。
けれど、じっと堪えたルナ。
私の痛みは、この娘は知らなくてもいい事。知るべきでは無い事。
痛みや憎しみの連鎖は、ここで断ち切るべきなのだ。
そう、ルナは考えたように思えてならない。


映画を比較するのは、あまり好きではない。
けれど、どうしても、この監督の前作と比較してしまう。
前作では戦争の傷跡を、お互いの愛情で乗り越えようとした母と娘が描かれていた。
けれど、今作では、傷跡を乗り越える為に別々な道を選んでしまった二人。
状況も違えば、愛情の質も期間の長さも違う。一概に比較はできない。
けれど、お互いの愛情で乗り越えることができなかったことは、
とても残念に感じる。だからこそ、戦争の罪深さも引き立つ。

しかし、ルナは生きてゆく。
最後に、なにかを吹っ切ったような彼女の表情がとても素敵に見える。
戦争の痛みの重さ、しかし、それでも生きてゆく彼女の強さが印象的な映画。
* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
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