裏切りのサーカス  
2012.09.06.Thu / 11:00 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。






英国情報局に潜入している二重スパイ。
その二重スパイを探し出す密命を受けた男。
果たして、二重スパイは誰なのか?

二重スパイを探し出すサスペンス。
しかし、途中から、それ以上に強く、この映画から感じるのは、
スパイという存在の悲哀。
任務の為には愛情も名声も捨てなければならない。
いや、逆に、積極的に利用し相手を欺かなければならない。
あくまで黒子に徹し表舞台に立つことは許されない。
そして、その全ては守るべき価値がない体制を維持する為。
そんな事が割り切れなかった男たちの悲劇。
そして、割り切った男の悲哀。狂信してしまった男の恐ろしさ。
利用された妻が戻ってきた事がこの映画の唯一の救い。
パーティーでは仲良く楽しんでいた仲間達。
それは既に過去の美しかった思い出。
いや、あの当時でさえ、あれは幻であったという哀しさ。
そんなスパイという存在の救い難さが印象的な映画。


映画から感じられる圧倒的な圧迫感と緊張感。
短時間に凝縮された情報量の多さ。
登場人物たちの秘められた様々な感情と、その交錯。
それらを繋ぐ数々の伏線。
動と静が織り交ざったシーンとテンポの良さ。
映画というものが心から堪能できる映画。






現役を引退させられたスパイ、スマイリー。
しかし、二重スパイの探索のために再び現役に復帰させられる。
「これは君たちが残した遺産だ。真相を知りたいとは思わないかね。」
言葉巧みにスマイリーの心に火をつけるレイコン次官。その巧みさが見事。

手がかりは何も無いはずだった。
けれど、思わぬ方向から真実に近づいてゆくスマイリー。
眼の付け所が、さすがにプロ。
そして、あぶりだされてゆく二重スパイと宿敵カーラとの連絡方法。

二重スパイの正体は、あまり意外には感じられなかった。
むしろ、勘の悪い私にも途中で分かってしまうくらいに、順当だったように思える。
しかし、犯人探しのミステリーより強く感じたのは、スパイという職業の悲哀さ。
二重スパイの捜査における重要人物、リッキー・ター
スパイという存在は、言わば日陰者。
そして、実働部隊とは、日陰者であるスパイの、さらなる裏方。
表舞台に出て、謀略や駆け引きを仕切ることなど決して許されない存在。
しかし、心の迷いなのか、女性に心を魅かれた為なのか。
自身が仕切りたいという願望を抑えられず、その鉄則を破ってしまう、リッキー。
その結果起こってしまった悲劇。しかし、取り戻すことは、もう出来ない。


スマイリーに協力しているピーター・ギラム。
金髪女性を追いかけているようでいて、本当はゲイ。
しかし、その身が危うくなり私生活を処分しなければならなくなった。
その時、ギラムが流す孤独の涙。
哀れというよりも、スパイの救い難き宿命を感じさせる。


コントロールから密命を受けた、ジム・プリドー。
しかし、彼もまた、男を愛していた。
そして、裏切るはずの無い愛人に秘密を打ち明けてしまう。
それは、彼を助けたかったから。
ジムは、彼の正体にうすうす感づいていたのだろう。
しかし、それは無残にも裏切られてしまう。

敵に捕まってしまったジム。
けれどジムは釈放され、再びイギリスに帰国することが出来た。
それはなぜなのか。
そして、ジムが死んだと知った時に、真っ先にサーカスに駆け込んできた。
やはり、彼もジムを愛していたのだろう。
最後にはジムの手にかかって死ぬことを望んでいたようにすら感じられる。
殺す側と殺される側の涙が切ない。



最後まで正体を現さなかったカーラ。
しかし、スマイリーからは狂信者と呼ばれている。
それは、スマイリーとは間逆な価値観を持っているからだ。
身を滅ぼしてでも、スパイという仕事には価値があると考えているのだろう。

スマイリーは以前に一度、カーラに会っている。
その時、カーラは国に帰れば処刑されるはずであった。
この男を救いたい、それはスマイリーの自分自身に対する想いだったのだろう。
神経を削るような仕事。その成果は誰にも評価されない。
名誉や達成感とは無縁な仕事。
そして、全ては守るべき価値がない体制を維持する為。
けれど仕事を続けてきたスマイリー。
プロフェッショナルに徹してきた、というよりは、
冷めた目で自身の仕事を見ていたのだろう。
だからこそ、スマイリーは二重スパイにたどり着けたのだろう。
一度は、妻のことで見失ってしまったといえども、
それを冷徹に乗り越えることが出来たのだろう。

人のしての感情、愛情や名誉、達成感や価値観、
そんな全てを切り捨てなければ生き残れない仕事。
スパイという存在の救い難さが印象的な映画。
* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
No.1022 / タイトル あ行 /  comments(2)  /  trackbacks(1) /  PAGE TOP△ 拍手する
COMMENT TO THIS ENTRY
- from YAN -

ヤンさん、こんにちは!
映画館で鑑賞されたんですね。
もう現在レンタル出来るんですよ。早いですよね。(^^;

圧迫感と緊張感と情報量の多さに、心地良い疲れがありました。
淡々とした流れの中に、色々な感情がうごめいていて、
観る度に新しい発見が出来る面白い映画でしたね!

ヤンさんが「裏切り」と書いていたのは、最初のブタペストの件ですね。
私も最初は、もぐらがジムの情報をソ連側に流したせいで、
ジムが撃たれたのかな?とも思いました。
でも、あれは全てカーラの仕組んだ罠だった気がします。
コントロール(及びスマイリーまで?)を失脚させるため、
デッチあげのハンガリー大使亡命情報を渡したのかと。
そして、もぐらがどの程度バレているか知りたくて仕組んだ策略だったのでは?
もぐらはその時ジムを裏切ってなかったと思います。
あの動揺ぶりからも、それを感じました。

ヤンさんも、もう一度ご覧になると、どう見えてくるでしょうか。

2012.12.07.Fri / 16:28 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from ヤン -

YANさん、こんばんわ。

そうです、最初のブタペストの件です。
コントロールは、誰にも知らせずに内密にジムを
行かせたはずなのに、けれど、コントロールの思惑を外れて、
ビルにだけは、話をしてしまった。それは愛故に。
それ故に、ジムはブタペストで捕まった、と理解してました。
ビルもこの件で密告する時に、カーラにはジムを殺さないように
約束していて、約束が反故にされた故の動揺かな、と思いました。
でもYANさんの理解でも正しいとは思いますし、
なるほど、と感じました。
いずれにしても、哀しくて切ない映画でした。

それじゃ、また。

2012.12.08.Sat / 23:05 / [ EDIT ] / PAGE TOP△

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男の涙が哀しく切ない。 見応えのある緻密なスパイ映画。 TINKER TAILOR SOLDIER SPY 監督:トーマス・アルフレッドソン  製作:2011年 イギリス・フランス・ドイツ 原作:ジ
2012.12.07.Fri .No541 / RockingChairで映画鑑賞 / PAGE TOP△

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