乱れる  
2013.01.17.Thu / 18:29 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。






未来ある義弟の為に身を退くべきなのだろう。しかし、
自らに想いを寄せてくる男の気持ちを拒む事ができない女性の弱さ。

一途に寄せられる想いを拒絶することの辛さ。
そして、女としての幸せを手放す事の辛さ。
気持ちの整理がつかないままに、迎えてしまうラスト。
それは、観客を拒絶するかのような、突然の終焉。
果たして、一体何が悪かったのか。
そして、彼女は、これからを、どのように生きていくのだろうか?

彼女たちの心根の美しさ、されど、ままならない現実。
彼女たちの居場所は、この世界には存在しないのだろうか?
失われゆく美しさ、その儚さが印象深い映画。



ストーリーだけを捉えると、とても陳腐に感じてしまう映画。
そして、個人的には、とても苦手なタイプのストーリー。
けれど、最後まで目が離せなかった。
成瀬監督の見事な演出力。そして、高峰さんの見事な演技力。
それらが堪能できる、まさに映画はかくあるべき、と思わせる映画。





夫に先立たれ一人で森田酒屋を切り盛りしている未亡人、礼子さん。
半年の新婚生活、その後の18年間を嫁ぎ先の商店に捧げた女性。
しかし、礼子さんからは悲惨さや恨めしさは微塵も感じられない。
むしろ、これが自分の生き方である、と静かだが凜とした強さ感じる。
いわゆる、とても良く出来た、地に足のついた女性。
しかし、それは生きることだけで精一杯だったからでもあろう。
いつかは義弟に店を継がせたい、そう考えていたであろう礼子さん。
しかし、幸司からの思いがけない告白。
その日を境に弟を男性として意識してしまう。
けれど、実は礼子さんは、
ずっと以前から幸司のことが好きであったように感じてならない。
幸司の女友達が店に訪ねてきた時の狼狽ぶりから、
礼子さんは幸司のことが好きであったように感じてならない。


懸命に勤め上げてきた18年間。
けれど、ここには自分の居場所が無くなってしまった。
身を引くべきなのだろう。義弟の未来の為にも。
けれど、乱れる心。
家族会議の前にわざわざ弟に自身の決意を告げたのは、
自分の決意を、自分の中で、より硬いものにする為だったのだろう。
しかし、後を追いかけてくる幸司。
列車の中での席の移動が微笑ましい。

このまま最終駅に行って、そこで別れるべきだった。
けれど、別れられなかった礼子さん。
それは、幸司が可哀想だったから。そして、自分が可哀想だったから。
しかし、迎えてしまう突き放したような悲劇。

この映画からは男女の泥臭さは微塵も感じない。
最後まで理性的に振舞おうとした礼子さん。
そんな礼子さんの意志を尊重し、自身の想いを無理強いしなかった幸司。
そこからは、男女の泥臭さよりは、相手を思いやる美しさが感じられる。

順当に考えれば、この映画のラストは、
幸司は森田酒店で成功を収め、礼子さんは故郷にて、彼女らしい彼女なりの幸せを得て、
彼女らの理性的な決断が自らの幸せを作り出したという、そんなラストが相応しい気がする。
けれど、このようなラストでは、
この映画は映画史に残るような傑作にはなり得なかったではあろう。

それでは、果たして彼女たちの何が悪かったのか?
気持ちを整理することができず最後まで来てしまったことに対する、戒めなのか?
しかし、お互いを求める心を抑えることが出来ないことを、
否定は出来ないだろうし、否定したくもない。
ラストで魅せた高峰秀子さんの鬼気迫る表情。
これを礼子さんの浅はかさの結果だと否定できる人はいないであろう。


映画の冒頭で描かれたのは、
スーパーの強引な値引き商法に絶望した多くの小売店の人たち。
それは、地域に密着した小売店が、将来的には消えてゆく事を暗示している。
抗うことが出来ない時代の流れ、消費者たちの心変わり。
そして、同様に居場所を無くしてしまった礼子さん。
それは、時代の流れでもあっただろうし、世間体や、
礼子さんがまったく価値を感じていなかった財産分与、姑と小姑などの関係の為。
そんなもののために居場所を無くしてしまった二人。
そんなもののために失われてしまった二人の美しい心根。
とても残酷、そして無常観を感じざるを得ない。


彼女たちの心根の美しさ、されど、ままならない現実。
彼女たちの居場所は、この世界には存在しないのだろうか?
失われゆく美しさ、その儚さが印象深い映画。
* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
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