悪人  
2013.04.04.Thu / 20:59 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。






誰もが少しづつ愚かで、
誰もが少しづつ不器用で、
誰もが少しづつ身勝手で、
誰もが弱くて孤独で哀しい。

誰もが誰かにとっては憎い人で、
誰もが誰かにとっては大切な人。

けれど、救われるべき人と悪人との間には、
はっきりとした境界があるのだろう。

悪人は自分が行ってしまった行為を振り返らない。省みない。
自身の良心を誤魔化して罪に向き合わない。
だが、救われるべき人とは、
自身が行ってしまった罪や、
これから行おうとする行為に、
悩み、苦しみ、葛藤する人の事なのだろう。
そして、大切な人の存在が、
自らの過ちに気付かせるのだろう。

最後に身を犠牲にして大切な人を守った男。
その男の成長と苦しみが胸に残る映画。

そして、
詳しく知ることも無ければ、
知ることも出来ない、他人の人生や事件。
きっと情報メディアで知ったことで総てをわかった気になるのは、
とても危険なことなのだろうと、ぼんやりと考えさせられた映画。




田舎で祖父母の面倒を見ている青年、祐一。
祐一が居なければ祖父母は生活もままならない。
だから祐一は田舎を離れることが出来ないでいる。
祐一は優しい男なのだ。
しかし、祐一はとても孤独だ。
なぜなら、彼を理解する人が居ないから。
そして、幼い頃に母親に捨てられたから。
生活が苦しい母親からは、それでも、お金をむしり取るが、
祖母にはプレゼントをする。
そんな行いにも彼の孤独と優しさを理解することができる。
紳士服販売店に勤める、光代。
店とアパートを往復するだけの生活。
彼氏らしき男が妹には居る。
要領が悪いからか、出会う機会がないからなのか、
機会を求めて飛び出す勇気がなかったからなのか、、、
孤独を抱え、今の自分に後悔を感じている女性。

冒険をしてみて味わう不思議な自由。
祐一の車から見えた職場。
いつもなら働いている時間に男と一緒に居る。
それは、光代にとっては、
やっと始まった変化と幸せへの第一歩だったのだろう。


祐一が殺してしまった女性、佳乃。
傲慢、見栄っ張り、その為の友人たちへの虚勢。
弱みを見られることが嫌で、差し伸べられた親切も拒絶してしまう。
とても嫌な女性ではあるが、その愚かさには哀れすら感じてしまう。
しかし彼女の父親にとっては大切な一人娘。


佳乃を置き去りにした大学生、増尾。
佳乃が死んだと知れば逃げ出す、自己中心的な男。
ことさら友人たちに茶化して説明するのは、
置き去りにした罪を自身で認めたくは無いからなのだろう。
心のどこかで感じている後ろめたさを誤魔化すためなのだろう。


佳乃を殺したのは仕方の無い事。
祐一は最初は、そう考えていた。
けれど、光代と出会い、大切な人が出来て、その考えは変わっていく。
多分光代と先に会っていれば、祐一は思いとどまっただろう。
それは、生きることの価値を知ったから。
そして、大切と思える人の為に。

自首しようとした祐一を思いとどまらせた光代。
冷静に考えれば、とても愚かしい行為。未来の無い選択。
しかし、総てを失ってもいいと光代は感じたのだろう。
それは、生きることの価値を知ったから。
そして、大切と思える人の為に。


妻に謝り、増尾に対して振り上げた拳を振り下ろさなかった、佳乃の父親。
人は愚かで不器用、身勝手で孤独、そして弱い。
だから間違いを犯してしまう。
けれど、その間違いを正そうとすることは出来る。
間違いを犯すことに対して踏み止まることも出来る。
大切な人の存在を意識した時、人は強く成れるのだろう。

大切な息子の為に貯めた、大切なお金を取り戻そうとした、祐一の祖母。
美人秘書と煽てられて、見えなかった相手の正体。
けれど、本当に大切にすべき人を見つけ出した時、
その人の為に勇気を振り絞ることも出来るのだろう。

「あの人は悪人なんですよね。」
母親には捨てられた。けれど、光代は灯台に戻ってきた。
祐一には、それで十分だったのだろう。
だから、自らが悪人となり大切な人を守ったのだろう。
光代は祐一の本心に気付いていたのかもしれない。
そして、祐一の意志に従って別れを選択したように感じた。
この台詞は光代の別れの言葉のように思えてならない。



世の中の常識に照らせば悪人とは法を犯した者。
新聞やニュースからの情報だけでわかった気になれば、祐一は悪人。
しかし、もっと違うところに悪人は居る。
この映画から感じる悪人の定義は、
自身の良心を誤魔化して罪に向き合わない人々。
悪人と救われるべき人との間には大きな隔たりがあるのかもしれないが、
大切な人を思うことが出来れば、
悪人は救われるべき人に変わることもできるのだ。

光代と出会って生きる価値を見出した祐一。
時は遅かったのかもしれないが、
身を犠牲にして大切な人を守った祐一を悪人とは思えない。
祐一の成長と苦しみが胸に残る映画。
* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
No.1078 / タイトル あ行 /  comments(2)  /  trackbacks(2) /  PAGE TOP△ 拍手する
COMMENT TO THIS ENTRY
- from YAN -

ヤンさん、こんにちは!

大切な人の存在を意識したのが、
祐一も光代もタイミング的に遅かったのが残念でしたね。
もっと早く2人が出会っていたら、罪を犯さずに済んだでしょうに。
でも、ヤンさんの言うように、
祐一は本当の悪人には思えませんでしたね。
良心を誤魔化す事無く、罪と向き合える人だから、
救われるべき人になれると思います。

私もニュースで犯罪者に対して、
普通だったら踏みとどまれるはずって思ってましたが、
そう単純な事ではないですね。
悪人ばかりじゃなく救われるべき人が存在するのでしょうね。

2013.04.05.Fri / 18:38 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from ヤン -

YANさん、こんばんわ。

最初は、程度の差はあれど、
祐一も悪人だったのではないかと思えます。
けれど、佳乃との出会いが総てを変えていった。
だからこそ、もう少し早く出会っていれば、
なのでしょうね。
それでも、やり直すことはできるのでしょうね。

犯罪を犯して、極悪人のように見えて、
犯罪を犯さずに留まれるはずだ、
って確かに思いがちなのですが、
もっと複雑な事情があるんでしょうね、きっと。

それじゃ、また。

2013.04.06.Sat / 23:33 / [ EDIT ] / PAGE TOP△

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