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2013.04.11.Thu / 21:11 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。






生存本能による残酷さ。
宗教の思想による規律。
理性による判断。
その狭間をさ迷い漂流した少年。

彼が生き延びることが出来た理由。
若かったから。運が良かったから。
けれど、彼がハッピーエンドを迎えることが出来たのは、
彼の柔軟な思想によるのだろう。
様々な神を受け入れ、父親の教えを受け入れ、
自分自身を受け入れた。

漂流し、悪と神とに巡り合った少年。
人間の複雑さ、生きることの複雑さ。
それらの不思議さが印象的な映画。




興味があるものは全て受け入れる、パイ。
様々な神を信仰し、トラをまじかで見たいと願う少年。

カナダ行きの船に乗船し、しかし、嵐により船は沈没。
長い時を、リチャード・パーカーという名を持つトラと漂流。
長い旅の末にメキシコに流れ着き、生き延びることができた。
しかし、最後に語られる別なストーリー。
順当に考えれば、
最後に語られたストーリーが、現実に起こったこと。そして、
この映画で語られるストーリーは、パイの精神世界での出来事。
だから、パイにとっては両方のストーリーは共に真実なのだろう。
パーカーはパイが持つ生存本能であり、残酷さ。だから、
パイとパーカーは同一人物が持つそれぞれの側面ということになる。
そして、重要なのは、その視点でストーリーを振り返ると、
この映画での様々なシーンは別な意味を持つことなのだろう。

パイとパーカーが二人きりになった時、
パイはパーカーを手懐けようとしたが、それは失敗に終わる。
自身が行ってしまった、それまで経験したことのない残酷な行為。
それに戸惑ったパイは、生き延びる為、母親を殺された為だと納得しようとし、
自身を制御しようとしたのだろう。
けれど、それは失敗に終わってしまったということなのだろう。

長い漂流の中で、それでも何とか生き抜けたのは、パーカーのおかげ。
生き抜きたいという生存本能が無ければ死んでいたのだろう。
逆に生存本能だけでは生き延びられなかっただろう。
時にはマニュアルに従って理性的に行動し、起こった出来事を全て受け入れた。
だからこそ、生き延びることが出来たのだろう。
全てを信じることは、なにも信じない事。
けれど、全てを受け入れなければ生き延びることは出来なかったのだろう。

CGとはいえ、素晴らしく美しい海原。
冒頭で語られた、クリシュナの口の中の宇宙の逸話や、
パイという名前は無限に広がる世界の象徴、ということも相まって、
それは、まるで一つの宇宙のように見える。
そして、それは一人の人間の精神世界なのだろう。


嵐の中に神を見たパイ。しかし嵐に怯えるパーカー。
それは自身がしてしまったことへの罪の意識。神への怯え。


昼は与え夜は奪う。
多数のミーアキャットが住んでいる浮島には様々な意味合いがあるように感じた。

宗教的に考えれば、神の救いは諸刃の刃。頼りすぎてはいけない。
その救いに甘えすぎて、そこに留まることは身の破滅を意味している。
自分の道は自分で歩む。自らが自らを助ける事が重要なんだろう。

理性的に考えれば、それは生きることに対する罠。
もしパイが浮島を神の救いと盲目的に信じたのなら、
助けが来るまで、そこに留まっただろう。なぜなら神のご加護だから。
しかし理性的な判断をしたパイ。
神の救いと思われたことの本当の姿を理性的な目で看過したのだろう。

本能に従って考えれば、これは、
パイが人の肉を食べてしまったということを意味するようにも思える。
瀕死であったパイが人の肉を食べて生き長らえた。
しかし、それを続けることのへの恐れ。
実は、蓮の花の中の歯はコックのものなのかもしれない。


生きることは、失うこと。
最後には文明世界に戻ることが出来たパイ。
しかし、さよならを言うことも出来ずに別れた人々、そしてパーカー。

文明世界に戻ることが出来たのなら、もはやパーカーは不要。
不要というよりは邪魔な存在。
パーカーは身の引き際を心得ていたのだろう。
それはパイにとっては幸せなことなのだから、パーカーはあえて、
さよならを言わなかったように感じた。
けれど、パーカーはパイの中にいつでも存在する。
だから、さようならを言わなかったようにも感じた。


あなたはどちらの話がいいと思いますか?
普通に考えれば、この時にすべき質問は、
どちらの話を信じるか?
であろう。
しかし、どちらを信じるか、という問い掛けの答えは自明なのだ。
後者が現実に起こったことと作家も気づいたのだから。
だから、どちらがいいと思いますか、と質問したのだろう。
その質問に対して、トラの話だ、と答えた作家。私も同感だ。
トラの話が幻想的で美しい話だからだけではない。
何が起こったか、よりは、どのように受け止め、何を受け入れたのか、
のほうが重要で有意義だからだ。


大自然を相手に生き延びる。それは生半可な事では達成できない。
様々なことを受け入れて生き抜かなければならない。
じつは、文明社会においても、それは同様なのかもしれない。
パイが生きるためにした様々な選択。
ベジタリアンの禁を破り人の肉まで食べて生き残った。
マニュアルを読み、神にも祈った。
その総てで生き抜いたのだろう。


漂流し、悪と神とに巡り合った少年。
人間の複雑さ、生きることの複雑さ。
それらの不思議さが印象的な映画。
* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
No.1079 / タイトル ら行 /  comments(2)  /  trackbacks(3) /  PAGE TOP△ 拍手する
COMMENT TO THIS ENTRY
- from YAN -

ヤンさん、こんにちは!
ポイント、ポイントで、同じキーワードが出てくるので、
似たような感想を持ったと思いますが、
断然ヤンさんのほうが深く捉えているし、
文章力も私とは違いますね(^^;

ヤンさんの感想から、生きる事の壮絶さと
それを乗り越えて生き抜いたパイの力強さを
あらためて感じました!

自分の感想に書き忘れてましたが、
パーカーがさよならを言わなかった理由は、
パイの中にいつでも存在するからだと思いました。
そこも印象的なシーンでしたね。
なかなか味わい深い面白い作品でしたね~

2013.06.25.Tue / 17:38 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from ヤン -

YANさん、こんばんわ。

そうですね、YANさんの感想とほぼ同じだと思います。
まあ、私の文章はええかっこしい、なんで、、、、(^^;

パイの生きる力とは、
すべてを受け入れ自分に取り込み、
自身の中に一つの宇宙を創ること、
なのかもしれません。
様々な困難や残酷さ、矛盾を受け入れる強さ、
なのかもしれません。

いろんなシーンから、
深く考えさせられる作品でした。

それじゃ、また、

2013.06.26.Wed / 21:22 / [ EDIT ] / PAGE TOP△

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