東京夜曲  
2014.07.31.Thu / 20:15 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。






状況やタイミングの悪さ。
偶然の悪戯。感情のもつれ。
それによって、生じてしまったボタンの掛け間違い。
それを正そうともせず、正すこともできず、
ただ、惰性的に受け入れ生きている男と女。

しかし、それで良かったのだろう、きっと。
長い時を経て、穏やかになった三人。
様々な経験により、他人の痛みも分かるようになった。
時間が流れたが故に、他人に対しても優しくもなれる。

無常に時は流れ、変わりゆく時代の中に失われてゆくものがある。
けれど、失われないものも存在する。

遠い昔の感傷。
それを受け入れることができるほどに大人になった人々。
そんな彼らが愛おしく感じられる映画。


どのシーンもとても美しい。
構図のとり方、光の加減、人々の表情。
全てが見事に計算され尽くしたが故の美しさ。
さすが、市川準監督。
市川準監督の芸術性が十二分に堪能できる映画。





長い間、家を出ていた男、浜中康一。
しかし、突然家に帰ってくる。
それを何も言わずに受け入れる妻、久子。
そして、かつての恋人、たみも、
何事も無かったかのごとく康一の帰宅を受け入れる。
なぜ、たみと康一は結婚しなかったのか?
なぜ、久子と康一は結婚したのか?
なぜ、何も言わずに康一を受け入れられるのか?

今ならばやり直せるのかもしれない。
しかし、それらは過ぎてしまった昔。
やり直しを行動に移せるほどに、彼らは若くは無いし、
残酷にも、わがままにもなれない。
やり直しをすれば、平穏な今を壊し、多くの人を傷つけ、過去を蒸し返し、
死んでしまった友人をも欺くことになってしまう。
だから、受け入れるしかない。
頭では分かっている。けれど時に感情が頭をもたげる。
そのまま帰ってと背中では言っておきながら、
口では引き止めてしまう。
「お茶漬け食べていかない?」と。

彼らに関心を持つ青年、朝倉。
朝倉は久子が好きなのだろう。だから関心を持ってしまうのだろう。
そして、自分なら、久子をもっと幸せにできると信じている。
今よりも幸せになれる方法があると考えている。
けれど、それは部外者故の思い込み。
それは本人たちが望んではいない決着の仕方なのだ。


電気屋を営んでいた康一の父親。
けれど、時代の流れ故に店を変えなければならない。
変わってしまった店では、することも無い。
だから、ボケてしまったのだろう。
時代の流れの中で失われてしまった自分の居場所。
それが、とても哀れに見える。けれど仕方の無いこと、なのかもしれない。
受け入れざるをえない、痛み、なのかもしれない。


近所のレコード屋を手伝う娘。
お互いに想っていたと信じていた相手が別な娘と結婚する。
多分、相手の男も、その娘の想いは感じていたはずだ。
けれど、いとも簡単に乗り換える。
とてもドライ、けれど今の時代ならば、ありがちなことなのかもしれない。
きっと、康一、たみ、久子の時代では、もっと葛藤があっただろう。
けれど、今の時代ならば簡単に切り替えてしまうのだろう。

祝宴の宴で一人寂しく席に座っていた娘に声を掛ける康一。
その言葉は、とても優しく響く。
康一には、その娘の気持ちがよく分かるのだろう。
相手の男を責めるわけでもなく、娘に諭すわけでもない。
ただ、状況を受け入れる、とても優しく。
それが大人の優しさなのだろう。


様々な経験により、他人の痛みも分かるようになった。
時間が流れたが故に、他人に対しても優しくもなれる。
遠い昔の感傷すら、受け入れることができるほどに大人になった人々。
そして、生きてゆく。
そんな彼らが愛おしく感じられる映画。

* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
No.1208 / タイトル た行 /  comments(0)  /  trackbacks(0) /  PAGE TOP△ 拍手する
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