完全なるチェックメイト  
2016.03.24.Thu / 21:36 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。






ただ純粋にチェスを指したかった。
相手を打ち負かし勝利を得る。
チェスとは、そんな単純で純粋な世界のはずだった。
しかし、さまざまな騒音が彼を苦しめる。

多分、あのような会場で、
大国の代理戦争のような形での勝負は、
したくは無かったのだろう。
けれど避けられない現実。
逃げても逃げても彼らは追ってくる。

周りが望んだとおりに勝利し、
しかし、その後捨てられた男。

世界チャンピオンに成るまでの緊迫感。
しかし、それ以上に、
疲弊し切り捨てられた哀れさが心に残る。
冷戦の犠牲になった男の哀れさに想いを馳せる映画。




天賦のチェスの才を持つ男、ボビー・フィッシャー。
挑発的で毒舌、気分屋で負けることを激しく嫌う男。
チェスには様々な指し方がある。
次の一手は無限に存在する。
しかし経験と論理に照らせば正しい一手は1つしかない。
そして、それを選んで勝利するのは自分の力。
純粋で明快なチェスの世界。
そんな世界に魅せられ、世界チャンピオンを目指すボビー。


チェスを極めた者に訪れる悲劇。
無限とも思える手数を、異常な緊張感のもと、
高度な集中力を保ちながら考察していく。
そんな作業に精神がいつか崩壊していく。
けれど、ボビーの悲劇は、それだけではないのだろう。


まだボビーが少年だった頃、家を出て行ってしまった母親。
それはボビーが静寂を求めたから。
けれど、本当は母親に自分の方を見て欲しかったから。
いつも、父親とは別な男と居る母親。
最初は、そんな男を追い出せと要求していたボビー。
しかし、最後には共に出て行ってくれと要求した。
そんな要求は却下され、男を追い出すであろうと思っていたボビー。
しかし、母親は家を出て行ってしまった。
それはボビーが心の底で望んではいなかった事なのに。

チェスの試合に対して様々な要求を吹っかけるボビー。
本心では、そんな法外な要求は却下され、
試合は出来なくなることを望んでいたのだろう。
しかし、皆が法外な要求を満たそうとする。
それが特異な才能を持つ男、ボビーが望んだことだから。

母親にも周りの人間にも本当の欲求を満たしては貰えなかった。
それが、ボビーの悲劇なのだろう。


チェスとは実力だけがものをいうゲーム。
優劣を決する為に相手に盤上で勝利することを目指したゲーム。
しかし、初めての国際試合で、
それとは別な世界を見せられてしまったボビー。

大国の威信を守る為に、あえてドローの為の時間稼ぎをする。
それは自分自身の勝利の為ではなく、
自分が属する国の他のプレイヤーの為に。
そして自分が属する国の威信の為に。

国家的な謀略を夢想してしまうボビー。
しかしチェスの世界では国家的な謀略が確かに存在しているのだ。

国際試合なんて出場はしたくは無かった。
けれど好敵手、ボリス・スパスキーを倒したい。
それには国際試合に出場しなければならなかった。

この矛盾もボビーの悲劇のうちの1つなのだろう。


セオリーとは違った指し方で見事勝利を収めたボビー。
けれど、それを機に引退してしまう。
なぜなら目的は果たしたのだから。
そして精神が限界にまで達したから。


国に益をもたらせば英雄。
しかし、もたらさなければ、ただの精神異常者。そして非国民。
それは、同じ対戦相手に勝利したにもかかわらず。
晩年は亡命国で最後を過ごしたボビー。


周りが望んだとおりに勝利し、
しかし、その後捨てられた男。
世界チャンピオンに成るまでの緊迫感。
しかし、それ以上に、
疲弊し切り捨てられた哀れさが心に残る。
冷戦の犠牲になった男の哀れさに想いを馳せる映画。
* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
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