海炭市叙景  
2016.11.03.Thu / 22:51 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。






寂れ変わりゆく街。
社会は世話しなく動き、
効率と儲けることばかり求められ、
世界は確実に住みにくくなってゆく。
そして、人々は時代に取り残されそうになる。
大切なモノを見失ってゆく。

けれど、大切なものは失われたわけではない。
どこかにまだ、あるはずなのだ。
それを見つけ出すことができれば、
もしかしたら幸せは、再びやってくるのかもしれない。

見失ったまま逝ってしまった人。
取り戻そうと、もがく人。
そして、取り戻せた人。

そんな人々に、この映画はとても優しい。
とても冷たい空気の中、それでも、
この映画が彼らに向ける眼差しは、とても暖かい。

生きがたい世の中。
それでも生きてゆかなければならない。
そんな人々にとても優しい映画。



不況のあおりでリストラされた兄妹。
きっと、幼き頃に両親は死んでしまい、
二人で肩を寄せ合って暮らしてきたのだろう。
しかし、今また、兄の生きがいも奪われてしまった。
二人で見た新年の初日の出。
妹はとても幸せそうで、しかし、
兄の顔は泣いているように見えた。
それを見た妹は、なにか、
いけないものを見てしまったような戸惑いの表情を見せる。
きっと兄は、すでに死ぬことを決めていたのだろう。
そう思えてならない。
そして、還らぬ兄を、いつまでも待ち続ける妹が不憫でならない。


立ち退きを迫られている老婆。
しかし、立ち退きを迫る側よりは、
老婆のほうが一枚も二枚も上手だ。
それは生きてきた人生の厚みが違うから。
それでも一人で生活するのは孤独で寂しいのだろう。
一緒に生活してきたネコが行方不明になってしまった。
それを捜す老婆の声が耳から離れない。


生活苦の為なのか、妻は夜の仕事をしていて、
夫婦の関係は完全に冷え切っている。家族の絆も希薄だ。
昔は家族揃って本物の星を見に行った。
その頃の幸せは、今はどこに行ってしまったのか?


父親から家業を継いだ男。
新しく始めた事業は上手くはいかない。
溺愛している息子は継母に虐められている。
今日は足の爪も潰してしまった。
何もかもが上手くはいかない。
でも、ちゃんとしなければ。
悪いのは自分なのだから。


父親と疎遠になった男。
成功する為に街を後にして都会に出た。
きっと父親の反対を押し切ってのことなのだろう。
成功して見返したい。けれど、それが出来ないでいる。
そして、すでに諦めているのか、
流れに任せているように見える。
夜のバーで見かけた男は、金は持ってはいるが、
人生の成功者には見えない。
きっと、自分と同類なのだろう。
自分が思い描いた成功なんて、
しなくても生きていけるのだと安心してしまう。
だからこそ、父親とも会話が出来たのだろう。
ぎこちなくて、不器用で、短いものであったとしても。



生きがいを失い命を落とした兄。
しかし、家族の絆を取り戻そうとした男たち。
そして、老婆の下に還ってきたネコ。

幸せだった過去の思い出。
けれど、それらは無くなったわけではない。
取り戻そうと思えば取り返すことは出来るはずだ。
家族との絆、父親との関係。
そして、兄にとっては妹との生活であっただろう。

この映画は登場する人々皆に優しい。
逝ってしまった人にも。取り戻そうともがく人にも。
とても冷たい空気の中、それでも、
この映画が彼らに向ける眼差しは、とても暖かい。

生きがたい世の中。
それでも生きてゆかなければならない。
そんな人々にとても優しい映画。

* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
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