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  海を飛ぶ夢  
2005.06.28.Tue / 22:56 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。




人間の尊厳とはなんだろう。

人々に愛され、人々を愛し、
多くを与えられ、逆に多くを人々に与えている。
それは、ある意味で、とても、恵まれた環境。
しかし、尊厳死を望むラモン。
そんな恵まれた環境だからこそ、
彼が死にたいという気持ちは、理解するのが難しく、
だからこそ、人間の尊厳という言葉の意味が、あぶり出されてくる。

自分だけでは何もできない。
個人のプライバシーさえない。
経済的にも自立していない。
そして、そんな自分に負い目を感じながらも、生きながらえている。
自立しているとはいえない自分。
そんな自分が許せないのか。

ありふれた、励ましの言葉。
通り一遍の、人生への教訓。
だが、そんな言葉の意味をラモンは十分理解している。
しかし、それら言葉を発する人間は誰もラモンを理解していない。
だから、それら言葉は、とてもむなしい。
そして、とても無力。

「自分の人生に満足を感じることができない。」
ラモンという人は、かなり知的に描かれていて、
悲惨な人生を、捨て鉢には生きていないようにも感じました。
しかし、彼が知的であるからこそ、
空想の中でしか羽ばたくことができない、自分の人生に満足できないのかもしれません。
人生の可能性を示されれば示されるほどに、その可能性を生かせない無力な自分がいる。
尊厳死を望む想いは、きっと28年という長い時間で熟成されたのでしょう。
だから、映画の中の登場人物たちには、誰も彼の気持ちが理解できませんでした。
彼の思想には、はるかに届かない、、、、
そして、この無理解と孤独も尊厳死を望む想いに拍車を掛けているのかもしれません。

一番彼に近いと思えた女性弁護士のフリア。
しかし、彼女は最後には生きることを選択しました。
砂浜で抱き合う彼女と彼女の夫の短いシーン。
夫のために生を選択したのかもしれません。
もしくは、発行された詩集を見て、
この才能を抹殺すべきではないと考えたのかもしれません。
そして訪れる対照的な最後。果たしてどちらが幸せなのか?
それは、個人に依存するのかもしれません。

一番遠くにいると思えた、ラモンに思いを寄せるロサ。
愛する人の気持ちを尊重するため、ラモンの死を手伝います。
しかし、ラサには判っていたのでしょう。
自分は、ラモンを理解していない、そして愛されることもない。
彼からは、はるかに遠い自分。唇ではなく、額にした、最後のキスが印象的。

ラモンは孤高の哲学者なのかもしれません。
28年間に熟成された彼の想いは誰にも理解されず、
その哲学は死ぬことで完成されたのかも知れません。
* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
No.295 / タイトル あ行 /  comments(4)  /  trackbacks(3) /  PAGE TOP△ 拍手する
COMMENT TO THIS ENTRY
- from くりりん -

彼の行動には賛否両論あるでしょうね。
感想でも書いた通り、私はどちらかといえば否定派かな。
人は他人のために生きるものではないけれど、やはりあの家族達の姿を見るとつらすぎます。

2005.12.16.Fri / 22:15 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from ヤン -

そうですね。本人もそうなんだけれど、家族も同じようにつらいのでしょうね。ラモンという人にとっては、本当に難しい選択だけれども、ゆずれない決断でもあったのかもしれませんね。

 自分が、ラモンだったら、自分がラモンの家族であったのなら、、、とても重い映画でしたね。

2005.12.17.Sat / 19:42 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from YAN -

ヤンさん、こんにちは!
自分の好きな作品を、ヤンさんはどう観たのか、
またそれを読みに来ました。
どの文章にもウンウンと肯いているうちに、やっぱりこみあげてきました・・・

ラモンとフリアはどちらが幸せだったか、一言では言えませんね。
生に対して前向きな生き様が一番良いんでしょうが、
死を積極的に考えた生き様も、それはそれで納得できました。

2008.02.26.Tue / 15:13 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from ヤン -

YANさん、こんばんわ。

確かにどちらが幸せだったのか、わかりません。
個人が、自分の生き方に満足できるか、どうか、
それも個人に依存するのかもしれません。

ラモンは、死にたかったのではない。
自分の生き方を完成させたかったのではないのかと、
今は、そんな風に思えます。

それじゃ、また。

2008.02.27.Wed / 21:19 / [ EDIT ] / PAGE TOP△

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