好きだ、 

「ネタバレ」あり。ご注意願います。




ゆったりとしたストーリー展開と静寂すぎる間。
しかし、その間に張り詰めたように存在する緊張感。
そんな静かな緊張感の中で、
二人の心は微妙に変化し、揺れ動いている。
しかし、決して本心は明かされることはなかった。

17年間前に、すれ違い、燻っていた恋。
奇跡的な出会いによって、止まっていた恋が実を結ぶ。
止まっていた理由は、ささいな事、でも大きな理由。
あの時、なぜ、あんなことをしてしまったのか?
そこに、言葉に出来るほどに明確な理由はないのだろう。
そんな過去のとまどいに対して、この映画はとてもやさしい。



ヨースケは、34歳。
音楽で食べて生きたいと思い、
かろうじて、その隅っこで生きている。
多分、なにもかもが虚しい空っぽの生活。
今日も、自分には関与できない場所で、
自分の仕事が止められた。
完成せずに終わってしまう、その作業。
幾度、そんな思いをしてきたのだろう。

物事が上手くいかない時、、
意に反して、途中で止められてしまった時、
そんな失意の時は、目をつぶって、一番好きな自分を思い出す。
でも、一番好きな自分を思い浮かべることができないヨースケ。
そして、一番好きな自分は、今でも、自分の中にいるのだろうか?

自分が一番好きな自分。
それは、多分17歳の頃の自分。

17歳の頃。
二人でいても、何を喋っていいのか分からないユウとヨースケ。
耐えられない静寂の中、思わず聞いてしまう、姉のこと。
しかし、ユウは勘違いをする。
ヨースケは姉のことが好きなんだ、と。

姉の制服を着て登校するユウ。
本当は自分のことを見て欲しかったのだろう。
でも、口からは逆の言葉が出てしまう。
「におい、かいでみる?」
そんなことを言われたら、どうしたらよいのだろうか?
戸惑ううちに、「ヘ・ン・タ・イ・ヤ・ロ・ウ」
本心は明かされず、すれ違ってゆく二人。

大事な話がある。しかし、それでも、
すれ違い、大事な一言を言えずにいた、
痛みにもにた過去のとまどい。
なぜ、あの時、自分は泣いてしまったのか。
なぜ、あの時、涙を止めなかったのか。
なぜ、あの時、逃げるように、あの場を立ち去ってしまったのか。
心に残るしこり。大きな後悔。
ならば、あの時何をすればよかったのだろうか?
あれは、仕方がないことなのかもしれない。
そんなに人は器用には振舞うことは出来ない。

姉の事故を機に、時を止めてしまった二人。
もう、ヨースケには会えない。
きっとユウはそう、考えたのだろう。
それでも、この気持ちを大切にしたい。失いたくない。
果たされないことを覚悟でかわした約束。



最後に言うことができた、大事な一言。
17年前に言っていたとしたら、果たしてどうなっていたのか?
その言葉は、今だからこそ、言える言葉なのかもしれない。
心が、その時をじっと待っていたのかもしれない。
それでも、暴漢に刺されるようなことがなければ、
二人は想いを伝えることは出来なかっただろう。
時を重ね、大人になったとしても、人はとても不器用。
なにをしたらいいのか、大切なことは見失いがちだからだ。
だからこそ、あの言葉は、
自分が一番好きな自分を取り戻すことが出来る言葉なのだろう。


純粋さゆえの不器用さ、とまどい。
それでも、それは、きっと愛すべきことなのだ。
たとえ、ハッピーエンドにならなかったとしても、
不器用な自分を肯定し、過去の戸惑いを受け入れ、
そんな自分を好きになれることが出来るのは、
とても幸せなことだと思う。
この映画は、そんなことを言いたいのだろう。
だからこそ、この映画はとてもやさしく感じる。

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