麦の穂をゆらす風  
2007.03.08.Thu / 21:38 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。




征服者の都合で、混沌としてしまった故郷。
同胞同士の悲劇的な争い。
しかし、人の争いは、簡単には断ち切れない。
美しい自然のなかに、
人の悲劇とその心情を深く描いた映画。


自由への渇望。
独立への憧れ。
人並みな生活を送りたい。
弾圧や軍隊に怯えない生活を、、、
最初の動機は純粋な気持ちであったはずだ。
しかし、その純粋さは、
戦争という狂気の中では保つことは難しい。
殺さなければ殺される。
やられたら、やり返さなければ。
報復しなければ相手が増長してしまう。

争いが争いを生み、
殺人がより多くの死を呼ぶ。
死ななくてもよい多くの人が死んで逝く。

解決の為には、戦争以外に解決の方法はないのだろうか?
勝利の為には、自分たちが守るべき政府の法廷を、
無視しなければならないのか。
何が正しくて何が悪いのか?
果たして正しい解決方法は存在するのか?
しかし、幼なじみを殺してしまった。
もう後には戻れない。
彼等にしか分からないであろう想いが重さとなって、
彼等を争いから逃さない。
当事者にしか分からない背中に背負った心の重荷。
その重さが彼等を争いに駆り立てる。

今また同胞同士が、兄弟が殺し合う。

栄養失調で寝込む子供たち。
街には、多くの失業者、困窮する人々。
争うこと以外にすべきことは沢山存在する。
争うことよりも先に、救うべき人は国中に溢れている。
しかし止まらない戦争。

愛する人が殺された。
「もう二度と顔など見せないで。」
それは何度も繰り返された言葉。
何度、その言葉を繰り返せば終わりが来るのか?
そして、彼らは何のために戦うのか?
戦いにそれほどの価値があるのか?

愚かしい行いはすぐにでも止めるべきだ。
しかし、そんな言葉も挟めないほどに追い詰められてしまった彼等。
ケン・ローチが巧みに描く彼等の抱えた重荷が心に響く。
それが、彼らの状況に対して、我々に言葉を挟むことを許さない。

派兵に失敗したのなら撤収すればよい。
この映画は、そんな甘い考えをも、見事に打ち砕く。
なぜなら、征服者が去った後ですら、混沌とした悲劇は続くのだから。
征服者が蒔いた種として。征服者が意図はしていなくても。

美しい自然のなかに人の悲劇とその心情を深く描いた映画。
* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
No.470 / タイトル ま行 /  comments(2)  /  trackbacks(6) /  PAGE TOP△ 拍手する
COMMENT TO THIS ENTRY
- from くりりん -

ケン・ローチ、「ケス」と「SWEET SIXTEEN」で大好きな監督になりました。
人間らしく生きたい!という、共通であったはずの思いが、どうしてああいう結末になってしまうのか。人間は愚かだと言ってしまえば簡単ですが、なぜ心の思うままに生きていけないのか。殺したくない人間を手にかけることの恐ろしさ。でも一番恐ろしく空しいのは、それでも生き続け、同じ事を何度も繰り返すことですね。
弟の恋人に会いに行った兄は、絶望を味わいながらも、それでも「仕方なかったんだ・・」と自分を納得させて同じ事を繰り返すのでしょうから。

2007.03.14.Wed / 23:06 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from ヤン -

お忙しい中、コメントを残していただき、ありがとうです。
 私も、「SWEET SIXTEEN」は大好きな映画です。あのように個人の想いを丁寧に描いた監督が、IRAという社会問題を、なぜ題材に選んで、どのように完成させたか、とても興味がありました。
 個人の感情を丁寧に描き、それが歴史の流れとリンクしていったか、、とても上手な見せ方でした。だからこそ、本当は止めたい争いを止めることが出来ない現実に、説得力が溢れていました。
 最初は頼りがいのあった、尊敬すべき兄が、弟を殺してしまう。そんな悲しみを経験しても、人はなお、争いを止めないのでしょうね。始めるのは簡単で終わらせるのは難しい。本当に説得力がありました。

それじゃ、また。

2007.03.15.Thu / 23:28 / [ EDIT ] / PAGE TOP△

  非公開コメント
TRACKBACK TO THIS ENTRY
基本情報 「麦の穂をゆらす風」(2006、イギリス、アイルランド) 監督:ケン・ローチ(ケス、リフ・ラフ、マイ・ネーム・イズ・ジョー) 脚本:ポール・ラヴァティ(カルラの歌、マイ・ネーム・イズ・ジョー、スウィート・シックスティーン) 製作:レベッカ・オブライエ
2007.03.10.Sat .No92 / Production Rif-Raf / PAGE TOP△
★★★★☆監督:ケン・ローチ主演:キリアン・マーフィー、リーアム・カニンガム、ポードリック・ディレーニー2006年 アイルランド、英、独、伊、スペイン、仏 1920年、アイルランドはイギリスの支配下の元、人間らしい生活を送ることさえできないでいた。 デミアンは医
2007.03.14.Wed .No96 / 魔女っ子くろちゃんの映画鑑賞記録 / PAGE TOP△
2006年 アイルランド・イギリス・他 2006年11月公開 評価:★★★★★
2007.05.26.Sat .No104 / 銀の森のゴブリン / PAGE TOP△
こういう映画を観てよく考えてほしいです。各国の権力者たちへ。『麦の穂をゆらす風』キャスト =  キリアン・マーフィー               ポードリック・ディレーニー               リーアム・カニンガム 《あらすじ》 1920年のアイル...
2007.06.11.Mon .No106 / chicoはわがまま勝手評論家 / PAGE TOP△
【邦題】麦の穂をゆらす風 【あらすじ】1920年。長きにわたりイギリスの支配を受けてきたアイルランドでは、疲弊した人々の間に独立の気運が高まっていた。そんな中、南部の町コー...
2007.10.18.Thu .No125 / epiphany / PAGE TOP△
イギリスの鬼才、ケン・ローチの描くアイルランド独立戦争下の、独立運動に身を投じる兄弟の確執を描いた重いドラマ。 カンヌ映画祭でパルムドールを受賞した話題作です。 英国の執拗なまでの圧政により、独立運動の機運が高まるアイルランドの当時の史実に基づく作品...
2008.07.25.Fri .No243 / cinema!cinema! ミーハー映画・DVDレビュー / PAGE TOP△

ご注意

ブログ内検索

全ての記事を表示する

プロフィール

ヤン

銀河英雄伝説名言録



present by 田中芳樹:徳間書店「銀河英雄伝説」

フリーエリア

FC2カウンター

フリーエリア

ブロとも申請フォーム

フリーエリア

CopyRight 2006 Heaven of the Cinema All rights reserved.