ブロークバック・マウンテン  
2007.10.05.Fri / 00:02 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。




一見すると男同士の禁じられた純愛を描いた映画かもしれない。
しかし、様々な人生の局面を描いた映画。
自分の良心や道徳感、責任感で人生を選択した不器用な男が、
許されない恋愛に苦しみ、
結果として、周りの人々を不幸にし、自らも苦しむ。
「お前のせいで俺はこんな人間に、、、俺はクズだ、負け犬だ」と。
しかし、多分、何度彼が彼の人生をやり直す事が出来たとしても、
彼の選択とそれによる彼の人生は、
さして変わらないのではないのではないのだろうか?
それは彼自身が彼自身に従って選んだ人生だから。
しかし、だからこそ、人生の最後にたどりついた境地は、
彼に穏やかな幸せをもたらした様にも思える。
人生の幸せとはなにか。そんなことも考えさせられる映画。

ブロークバックマウンテンで運命的な出会いをした二人、イ二スとジャック。
しかし、すでに婚約者を決めているイニス。
山を降りれば、そんな現実が待っている。
山を降りることを渋り、降りた後にも嘔吐するイニス。
それは、あたかもマリッジブルーの心境に似ているのかもしれない。

人生を選択する。就職先や結婚相手を決める。
そのたびに、人は幸せになるのかもしれないが、
反対に、自由は失われる。
そして、簡単には引き返せない。
だから、夢見たくなる。
まったく別な人生を。
さまざまなしがらみに囚われない人生を。
出来ないとわかっていても。

イニスは、皮肉なことに、人生を選択した後に、
そんな、別な人生があることを知ってしまった。
そこから、彼の苦悩が始まる。

なぜ、二人が惹かれ、愛し合ったのか?
あまりに唐突すぎて、正直、分からないところもある。
イニスは、とても生真面目で、人に弱みを見せない男だ。
くじけそうになっても、手を差し伸べてくれる人の手を、
振り払ってしまうような男だ。「何を見てやがる!」と。
しかし、ジャックのイニスに対する強い想いはその壁を乗り越える。
駄々っ子のように振り払おうとするイニスの手を払いのけ、
ジャックはイニスの懐に飛び込んでゆく、イニスを癒すために。


ままならない人生を送るジャックとイニス。
その渇きを癒すかの如く、つかの間の逢瀬にのめり込む。
普通ならば、きっと、
酒やギャンブル、女を買うことで紛らわすのだろう。
しかし、違う癒しを知ってしまった二人。
それを直接知ってしまったイニスの妻、アルマ。
間接的に疑うジャックの妻、ラリーン。
二人の女性の苦悩も深い。

すでに愛情も覚めたイニス夫妻。
生活苦のために「避妊して。」というアルマの願いに、
「俺の子供が欲しくないなら、もうお前とは寝ない。」
と突っぱねるイニス。
そして、「養う力があれば産むわ。」と返すアルマ。
売り言葉に買い言葉。
普通なら、ただの夫婦喧嘩で済んだのかもしれない。
だが、特殊な事情を抱えている二人。
それにより二人の自尊心は深く傷つき、
夜の営みが愛故に行なわれてはいない事を、
二人ともに悟ったのだろう。

ジャックは寂しさの余り、
遂には別な愛人との生活を選び、しかし、死んでしまう。
事故で死んだのか、殺されたのか。
だかイニスにはジャックが事故で死んだとは思えないのだろう。
そして、イニスはジャックを最後まで、救う事はできなかった。
最後まで、彼の愛には応えなかった。

ジャックの両親は二人の関係を知っている。
それでも、男を愛してしまったジャックの位牌を受け入れる父親。
いや、もうこれ以上息子を奪われたくはないのかもしれない。
しかし、逆に母親は、自分の息子を大切に想ってくれたイニスに誠意と感謝を示す。
対象的な二人。

結婚を決めた娘にイニスは問う。そいつはお前を愛しているのかと。
お前だけには、俺たちの苦しみを味わせたくはない。
そんな想いから発せられた問いなのだろう。
そして、一度は娘の結婚式に参加を拒んだように見えたイニス。
自分のような人間が本当に出席してもいいのだろうか?
だが、イニスは、そんな思いを娘の為に抑えて、出席を決める。

自らの道徳心、心情に従い、ジャックとの人生を選択しなかったイニス。
多分、何度同じ人生を生きてみても選択した結果は同じになるのではないのだろうか。
何故なら、それはイニスが自分自身の生き方として選んだ結果だから。
それは、例え父親のトラウマに縛られなくとも。
私にはそう思えてならない。

逆にジャックとの人生を選択したとしたら、
果たしてイニスは幸せになれたのだろうか。
それはノーであろう。
違う人生には違う不自由が待っている。
そして、捨ててしまった者たちに対して、
激しく後悔と罪の気持を抱えて、苦しみながら生きてゆくことになるのだろう。
すでに彼ら二人には、彼等のブロークバックマウンテンは帰っては来ないのだ。

娘が嫁ぎ、ついには一人ぼっちとなったイニス。
しかし、皮肉なことに人生のしがらみからも開放された。
それは、ジャックからですら。
それでも一人で生きてゆこう、心の中のジャックとともに。
二人はこんな形でしか結ばれなかったのだろう。


最後にたどりつけた人生の境地。
彼が苦しみながらも、周りの人々を不幸にしながらも、たどりつけた境地。
それがイニスに穏やかな安らぎを与える。
苦しみながらも、彼が自分自身の生き方を選択した結果なのだろう。

人生の選択をする前の輝き。
選択後のままならない人生への苦しみ。
しかし、苦しんだ末に訪れた安らぎ。
様々な人生の側面をあわせもった映画。
* テーマ:見た映画の感想 - ジャンル:映画 *
No.532 / タイトル は行 /  comments(6)  /  trackbacks(1) /  PAGE TOP△ 拍手する
COMMENT TO THIS ENTRY
- from YAN -

ヤンさん、はじめまして。
「ブロークバック・マウンテン」で何気なく検索していたら、
なんと私と同じ名前の「ヤンさん」が目に飛び込んできて、
びっくりしました!

そして、いろいろある感想の中で、
ヤンさんがとても深くこの映画の事を考え、
イニスの心境をおもんばかっているので、ついコメントさせてもらいました。

>逆にジャックとの人生を選択したとしたら・・・・

のところ、私もノーだという気がしますよ。
でも不自由と苦労があり、例え殺されても、
自分の気持ちに素直になれ自然体で生きられたら、
それはそれで幸せと感じられるのかもしれません。

TBさせてもらいます。よろしくお願いします。
私の感想は、やたら長いだけなので、読んでいただくのは心苦しいんですが・・・

2007.10.06.Sat / 11:03 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from ヤン -

ども、ヤンです。
そちらも様もYANさんですか。同じですが、アルファベットですね。はじまして。

「自分の気持ちに素直になれ自然体で生きられたら」って、難しい生き方ですね。イニスが、ジャックの愛のみで生きることを良しと考えるような利己的な男だったら、、、、でも、そんな不器用故に人生に苦しむイニスには、親しみがわいてくるのも事実でした。


TBもありがとうございます。

それじゃ、また。

2007.10.07.Sun / 23:14 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from Mizumizu -

古いエントリーにコメント失礼いたします。
主役のイニス役のヒース・レジャーが急逝してしまいました。
拙ブログでも取り上げましたので、よければ読んでください。
ブロークバックについても触れています。

2008.01.24.Thu / 01:00 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from YAN -

私もこちらに、コメントさせてもらいます。
ヒースと言えば、なんと言ってもこの作品です。
哀しいストーリーなのに、ヒースの笑顔ばかりが思い出されます。
とても将来性のある役者だったのに、残念でなりません。

バットマン最新作「The Dark Night」の予告編のヒースは、
とっても哀しい顔をしたジョーカーで、まるで精神を病んでいる人です。
この死と重なって、戦慄を覚えました。

静かにヒースの死を悼みたいと思います。

2008.01.24.Thu / 17:52 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from ヤン -

Mizumizu さん、こんにちは。
故あってネットにアクセスできない環境にいましたので、
レスが遅くなってすいません。

旅先でこの悲報をしりました。
残念でなりませんね。これからの活躍が期待できるというとこだったのに。28歳は若すぎますね。

それじゃ、また。

2008.01.26.Sat / 18:33 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from ヤン -

YANさん、こんにちは。

YANさん、辛いですね。
28歳は若すぎます。
若いのに似合わず、重厚な演技、人生の苦悩を表現できるかと思えば、カサノバのような演技もこなす。人懐っこい笑顔も魅力的でしたね。

それじゃ、また。

2008.01.26.Sat / 18:40 / [ EDIT ] / PAGE TOP△

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わさぴょんさんと、この作品について話していたら、 やたら懐かしくなったので、この感想をブログに持ってきました。 すっごく長いので、読む方は覚悟して下さい。 監督:アン...
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