キャッチボール屋  
2008.07.30.Wed / 23:18 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。




過去に強い悔いを残してきた人。
あの時の自分を失い、どうしても思い出せないでいる人。
過去に捉われれば、捉われるほどに、
その後の自分の人生を進めないでいる。
そんな人たちが自身の人生を再び歩み始める為、
キャッチボールの相手を探す。
たまたま、キャッチボールの相手が見つかった時、
過去は過去となり、未来を歩くことができるようになった。
そんな人々を描いた映画。



公園に通う人、そこで一時の憩いを過ごす人。
習慣として通う人もいれば、たまにしか訪れない人もいる。
そんな人たちが、お互いに少しは顔なじみになるかもしれないが、
それ以上は相手を知りえない。
なぜなら、深く知りあう機会も必要もないから。
だから公園で、人々はすれ違うのだけれど、それは、
彼らの人生では、本当にわずかな時間、わずかな存在。
たとえ彼らの間に過去のしがらみが存在していても、何も起こらない。
キャッチボール屋とは不思議な職業。
すれ違うだけの公園の人々に、相手のことを知る機会を与える。
しかし、キャッチボールの相手をするだけでは不十分なのだ。
彼らはキャッチボール屋とキャッチボールをしながらも、
心の中では、違う誰かとキャッチボールをしている。
本当に自分がキャッチボールをしたい人を探している。

リストラされて故郷に帰ってきた大山タカシ。
彼の時間もまた、止まっている。
片思いだった恭子さんに告白できなかったからではない。
最後の試合のあの時の自分を思い出せないでいるから。
そして、取り戻せないでいるからだ。
酔った勢いで東京に戻ってきても、
自分はなぜ舞い戻ったのか思い出せないでいる。
そして、オドオドとして、他人に流され生きている。

他人の人生を借りて、他人の人生を眺めてみる。
キャッチボール屋を引き継いで、彼の目で他人の人生を眺めてみる。
すると、いろいろな人生が見えてくる。
そして、先代のキャッチボール屋が、
如何に優しく人々に接してきたのかを、知ることができる。

過去に燻っていた男たちに、たまたまの出会いを提供したタカシ。
そして、忘れていた自分を取り戻すこともできた。
彼らはきっと、失われていたジグソーパズルの一片を、
自分の過去にはめ込み、完成させることができたのだろう。
過去が完成することにより、また、
未来に歩き出すことができるようになったのだろう。

痴呆症で「ドンマイ、ドンマイ」を繰り返す野球部の監督。
監督の心のなかには、今でも、バックホームをしたタカシの姿があるのだろう。
皆が試合を諦めた瞬間でも、ひたむきにボールを追い、
間に合うはずのないバックホームを懸命に投げたタカシの姿が、、
それは、映画の冒頭で、タカシが失っていた純粋さであり、
この物語を通じて取り戻した物事に対する誠実さなのだろう。
まだ、ちょっと頼りないが、確かにタカシからはオドオドさが消えている。

キタキマユさんが演じた謎のOL。
彼女もまた、何かしらの事情を過去に隠し持つ。
それを、たまたま知ることができたタカシ。
タカシは最後に告白をして、しかし、
「あなた、ヘタだから。」と言われて、振られてしまう。
それはきっと、夜の公園で、「しよう。」と言われて、
戸惑ってしまったタカシを指しているのだろう。
あの時、即答できなかったタカシには、まだまだ、
恋愛の時が煮詰まっていないと、感じたのだろう。
それでも、「私も、たまたまを探すわ。」
たまたま、二人は出会い、
たまたま、キャッチボールをして、会話をした。
そして、相手の事情を知った。
もしかしたら、未来においても、
幸せな「たまたま」が二人にやってくるのかもしれない。
それは、誰にもわからない。

いつもは名脇役として主役を支えてきた役者さんが、
この映画では主役として映画自身を支えている。
いずれの役者さんも渋くて存在感がすばらしい。

最後には野球部の監督に就任したタカシ。
あの時のひたむきさを取り戻した結果なのだろう。

キャッチボール屋のおかげで、
たまたま、キャッチボールの相手が見つかり、
そして、過去は過去となり、
未来を歩くことができるようになった人々。
そんな人々を描いた映画。






* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
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