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  ツバル  
2008.08.14.Thu / 17:48 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。




モノクロ映画で、台詞が極端に少ない映画。
だから、見る人が違えば、さまざまな想像が働くであろう映画。

利益の為に、まだ使えるものを破壊しようとする者。
たとえ、寿命が尽きかけたものであっても、
最後まで、その天寿をまっとうさせようとする者。
そして受け継いでゆく者。
私にとっては、人生の宝物を描いた映画。


廃墟と化した町にポツンとたたずむ建物。その中にあるプール。
そこの所有者である父に従い、プールで働くアントン。
プールは寂れ、客もほとんど入らない。
しかし、目が見えない父の生きがいは、このプール。
涙ぐましい嘘を父につき、まだプールが繁盛しているとダマし続けるアントン。
このプールのある建物から出たことが無いアントン。
それは父の言いつけの為。
父はきっと、アントンが外に出たのなら、
アントンの兄の様に、自分の元には帰ってこない気がしたのだろう。
しかし、アントンは外の世界に憧れる。
そして、一人の少女、エヴァに一目惚れをする。

町の再開発の為に回りの建物が壊されていく。
まだ、住める筈の建物さえも。
エヴァの父の必至の抗議も空しく、
彼らの住む建物は破壊されてしまう。
最後に残ったプールのある建物。
しかし、アントンの父は、大金を積まれても、
生きがいであるプールを手放さない。

利益の為に、プールを壊したいアントンの兄、グレゴール。
嫌がらせにも似た行為でプールを取り壊そうとする。
しかし、プールを懸命に守ろうとするアントン、
そして、そこに住んでいる人々。
なにも、彼らは住んでいる場所を奪われるのが嫌だから、
プールを守ろうとしたわけではないのだろう。
彼らはプールを、そして、アントンの父を愛している。
だからこそ、プールを守ろうとしたのだろう。
プールは守られ、しかし、アントンの父は帰らぬ人となる。

死ぬ間際、アントンが嘘を付いていたことを理解する父。
父はきっと、自分が如何にアントンから愛されていたかを
理解したのだろう。
そして、自分の心配が杞憂のものであったことも、、、
アントンをプールから外の世界に出さなかった父。
しかし、そんなことをしなくても、
アントンはきっとプールと父のそばから離れなかっただろう。
なぜなら、アントンは父を愛していたから。
それを理解した父。
だから父は最期に笑って死んでいったのだろう。

プールは最後には取り壊される。
しかし、他の建物と、その運命はまったく違う。
プールは、その役割を全うしたのだ。
父に生きがいを与えるという役割を。


この映画からは、人生の宝物という言葉を強く感じる。
このような題材に、
モノクロの画面と、台詞をできるだけ排除した表現方法が良く似合う。
父を最後まで愛したアントン。
皆に愛されて、その天寿を全うし、役割を終えて壊されたプール。
しかし、そのプールの心臓部とも言うべきボイラーは、
違う形で新しい命を吹き込まれ、
新しい人生という冒険に新たな役割を与えられる。
最後には、エヴァの父の想いを引き継ぎツバルを目指すエヴァとアントン。
滅び行くもの、失われゆくものの中にも、
大切にしなければならないものはあるのだろう。
皆が思い描いた理想の土地、ツバルもまた、彼らの人生の宝物だろう。
そんな人生の宝物を美しい映像で描いた映画。

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* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
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