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  イースタン・プロミス  
2008.09.04.Thu / 21:36 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。




悪人の世界と善人の世界。
それは通常であれば決して交わる事がない世界。
しかし、悪人の世界に迷い込んでしまった女。
そして、悪人と善人の世界の境に立つ男。
果たして彼は自らの未来をどちらに選ぶのか。
どちらか片方だけを選ぶことなど、
両方を知る彼にできるのだろうか?
善と悪の境目の混沌とした心を描いた映画。


助産婦であるアンナ。
流産という悲しい過去を持つ女。
だから目の前にいる小さな命を捨てることができないでいる。

「俺はただの運転手。」
自分自身の意思も持たず、
悪人の言うなりに従い悪事をかさねるニコライ。
しかし彼は心から悪には徹しきれてない男のように感じる。
全ては赤ちゃんの為。
悪人の世界に足を踏み入れ、
その世界のあまりの鬼畜さに嫌悪するアンナ。
けれど、ニコライからだけは不思議と、
そんな嫌悪感を感じないでいる。

イースタンプロミス。
それは人間以下の生活をする者への、
幸せへの約束だったはずだ。
しかし、その約束は同胞であるはずのロシア人に、
無惨にも踏みにじられ、食い物にされ、捨てられてゆく。

ボスはやり過ぎた。
人を利用し非道を重ね容赦なく人を切り捨てる。
まともな神経なら耐えられない行為。
しかし、そんな行為の元に彼らの社会は成り立っているのだろう。

ボスであるセミオンから赤ちゃんを殺すことを命じられるキリル。
しかし、悪の世界で生きてきたキリルなのに、
赤ちゃんを殺すことにためらいを見せる。
それは善人の世界では当たり前のこと。
しかし悪人の世界では甘い考え。
これは、ボスの息子として育てられたキリルの甘さなのか?
それとも、悪の世界に住む人間といえども、
善人の世界の感情を持ち合わせているということなのか?

潜入捜査官のはずだったニコライ。
しかし、ニコライは悪の世界の権力を受け継ぐ。
アンナの叔父も、かわいそうな売春婦も、確かにニコライに助けられた。
しかし、彼が受け継いだ権力は、
イースタン・プロミスの上に成り立っている。
多くの少女を食い物にして成り立っている世界なのだ。
お互いに惹かれあったアンナとニコライ。
それはニコライの心が善人の世界に住んでいることを意味しているのだろう。
しかし、彼らは別れを告げ、二度と再び出会うことは無いのだろう。
それはニコライの心が悪人の世界に住んでいることを意味しているのだろう。
果たして彼は自らの未来をどちらに選ぶのか?
善と悪の境目の混沌とした心を描いた映画。
* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
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COMMENT TO THIS ENTRY
- from タケヤン -

語りにきましたよ、「イースタン・プロミス」。
いやぁ、ヤンさんの感想を読んでると、ニコライは善人なのか悪人なのか、
自分でもだんだん分からなくなってきましたが(笑)、観た直後は
“ニコライは絶対、善人だ!”と思ったのですよ。
彼はあくまで潜入捜査官であって、悪の世界に身を置いているのも
全て捜査のためなんだと・・・。
だからボスの命令に背いてアンナの伯父を殺さずに逃がしてあげたし、
ラストで「グッバイ、アンナ」と言ってアンナから去っていったのも
アンナの未来を考えてのことなんだろうと・・・。
そういうふうに思ったのですよ。
でもヤンさんは、ニコライが善と悪の世界を行ったり来たりしているように
感じたわけですね。 う~む、そう言われればそんな気もするし・・・(汗)
っていうか、俺は、潜入捜査官という言葉にとらわれ過ぎたかもしれない
ですね。 この作品は明らかに「インファナル・アフェア」や「フェイク」
のような“潜入捜査官もの”じゃないですからねぇ。

ちなみにヤンさんは「ヒストリー・オブ・バイオレンス」よりこっちの方が
評価が高いですね。 俺はどちらかと言うと「ヒストリー~」の方が好き
なんですよ。 まぁ、そこらへんは人それぞれということで・・・(笑)

それから「みえない雲」も御覧になってますね。
主演のパウラちゃん、良かったですよねぇ。
放射能を含んだ土砂降りの雨の中、崩れるように座り込んでしまう
彼女の姿が目に焼き付いていて、物凄く印象に残りました。
ハリウッドのパニック映画とは一味違う作品だったと思います。

2008.09.06.Sat / 23:58 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from ヤン -

タケヤンさん、こんばんわ。

私も実は映画を見終わった後は、「ニコライは善人だ。」と思っていましたが、それにしては、カタルシスというか、安堵感を感じない、なにか違和感のある映画だと感じてました。セミオンの逮捕シーンも(確か)無ければ、その後のニコライも復職しない。それどころかボスっぽい顔してエンド、ですから。ヒストリー・オブ・バイオレンスを思い出して、あの映画も悪と善との境目を描いていることに気づくと、この映画も実はそうなんだな、と思った次第です。善と悪を行ったり来たりしてますが、そう見える理由は、彼がどちらの人間でもない、からだと感じました。きっと、人間とは、実はそういうものなのかもしれません。
 ヒストリーと比べるとビィゴが演じたニコライは、人間味を感じない、何を考えているか分からない、不気味な男でしたね。ヒストリーでは苦悩している分、人間味が感じられました。どちらも見事な演技でした。

 ヤン的には、実は映画の出来映えは、「ヒストリー」の方が良かったと感じてます。でも、もう一回見るなら「イースタン」ですかね。「ヒストリー」は苦悩するトムが痛くて、ちょっと再見するには勇気がいりそう。逆に「イースタン」はビィゴの熱演にもう一回ひきこまれる気もします。この辺りは難しいですね。

 タケヤンさんも「見えない雲」ご覧になったのですね。例のシーンのすさまじい迫力は、CGなんか使わなくても臨場感溢れて、見事でしたね。放射能の雨の中に崩れ落ちてしまう心情も見事に伝わってきました。その後の二人のお互いをささえあって生きる姿もけなげでした。ただ、ちょっと、そのあたりの印象が強すぎて、反核映画というよりはパニック映画であったり青春映画であったりと、メッセージ性は弱まったのが、ちょっと残念でした。

 それじゃ、また。

2008.09.08.Mon / 23:27 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from Whitedog -

クローネンバーグ大好きです。公開前にあれこれ書きましたが、この作品もクローネンバーグらしい作品だと思います。肉体の変容と社会の二面性、抗えない暴力もこの世には存在するといった作品だと思います。その意味で、アンナは完全に普通の人、ニコライは俺流の人として描かれ、善も悪もない彼の世界に生きているんだと思います。DVD出たらまた観たいです。

2008.09.12.Fri / 23:27 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from ヤン -

Whitedogさん、こんばんわ。

 クローネンバーグ監督の演出とヴィゴの素晴らしい演技が堪能できる作品でしたね。普通の人が暮らす社会のすぐ裏側にある悪の世界。その怪しさ。しかし、それ以上に人の心の不透明さ。特にこの映画では、ヴィゴは何を考えているのか分かりにくい怖さを湛えていました。見事な演技でした。

 それじゃ、また。

2008.09.13.Sat / 23:47 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from YAN -

こんにちは!
ヤンさんの言うように、ニコライは悪人と善人の世界の境に立っていましたね。

ラストの解釈ですが、潜入捜査官の立場であれば、
ボスを倒して組織を崩壊させればいいんであって、
自分がボスの座に就く必要はないですよね。
だから、ニコライは善人の世界には戻れないんだと思いました。

女などの弱き者には優しさを見せていましたが、
その心は、組織のボスになって、どうなるんでしょう。
そう簡単には消せないとも思うし・・・
でも人の心はもろいって事でしょうか。

2009.01.20.Tue / 17:28 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from ヤン -

YANさん、こんにちは。

 YANさんも、この映画ご覧になったのですね。ということは、ビィゴの風呂場での格闘もご覧になったのですね。まあ、すさまじいシーンでした。いろいろな意味でも。

 ニコライは善人の世界に戻れない、ですか。私の印象では自ら進んで戻らない覚悟を決めたような、それでいて、善人の心を失っていないような、奇妙な印象を持ちました。彼の将来は本当に不透明で、でも、もしかしたら人間なんてそんなものなのかもしれません。

 それじゃ、また。

2009.01.22.Thu / 22:15 / [ EDIT ] / PAGE TOP△

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