4分間のピアニスト  
2009.08.27.Thu / 22:00 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。






自らが過去に抱えた傷、痛み。
それは、他人には決して理解できないもの。
他人の痛みを完璧に理解しうる他人など、存在はしない。
少なくとも、彼女達は、そう考えているのだろう。
そう考えることで、彼女たちの人生は止まってしまっている。
しかし、完璧に理解できなくとも、
一部ならば分かち合える、知ることができる。
そんなことが判った時、
止まっていた人生は時を刻むことが出来るのだろう。
4分間の演奏により、未来を掴んだ少女を描いた映画。



世捨て人のようなピアノ教師、トラウデ。
過去に女性を愛し、今でも、その人を愛している女性。
恋人を自分から奪った、この世界。
そんな世界ならば、自分の痛みなど理解できるはずも無い。
そう考え、必要以上に世間と自分に冷たい女性だ。
トラウデを敬うミュッツェを、良い人だとは理解しても、
しかし、見ていてイラつくと感じるのは、
ミュッツェといえども、自分の痛みを理解できるほどの繊細さが、
男である彼には無いことを知っているからであり、逆に、
自分の過去を知って欲しくは無いという気持ちがイラつかせるのであろう。
トラウデが美しい音楽に殉じているのは、
彼女の、この世に対する激しい絶望のためであり、
自らに課した、この世に対する復讐と呪いのようにも思える。
刑務所に囚われているジェニー。
ピアノを愛し、ピアノの才能に溢れ、
しかし、その豊かな才能が自らの人生を縛り付けている。
ピアノを愛してはいるが自由も欲している。
そんな矛盾を抱えている女性だ。
ジェニーが、そんな人生から逃げ出すために、
ぶつかっていった病院の窓ガラス。
割れないと知っていても、その窓を打ち破り、自由が欲しい。
たとえ、窓が割れて死んでしまったとしても、それは本望なのだろう。
そして、そのまま刑務所の役人に囚われるよりは、
たとえ痛みが伴おうとも、彼女にとっては、
はるかにマシな行為なのだろう。
ジェニーも激しく、この世界に絶望している。
だから、すぐにキレる。裏切りには敏感になる。


そんな二人が共にピアノの教師と生徒として出会う。
似たもの同士、お互いを受け入れるようにはなるものの、
相手の痛みを受け入れ、共感することは決してない。

刑務所で人を殺しかけ、自由を奪われるジェニー。
周りのすべてが敵に回ろうとも、
ジェニーをコンテストに出場させるトラウデ。
自分の恋人が奪われてしまった未来。
それにより、自らも捨ててしまった未来。
だから、ジェニーには捨てて欲しくは無かったのだろう。
それは、トラウデの心の中では、
自身と彼女の未来を取り戻すことにつながるのだろう。
しかし、トラウデの心境は複雑だ。
演奏を開始した直後、ワインをあおるトラウデ。
ジェニーの舞台に緊張したという以上に、
自らの役目を終えたという安堵感以上に、
なにか、嫉妬のようなものをジェニーに感じたのではないのだろうか?

最後に演奏を終え、お辞儀をするジェニー。
二人がお互いを完璧に理解し合えたということではないのだろう。
しかし、自らの才能で自身の未来を切り開いたジェニー。
この時、ジェニーは初めて自由を手に入れたのだ。
それは、好きなピアノが自分を縛っていたという矛盾を克服したためだ。
そういう意味で、ジェニーはトラウデに勝ったのだ。
彼女の最後の笑みからは、ジェニーの優越感をも感じる。
だからこそ、お辞儀もできたのだろう。
服従という意味ではなく、感謝という意味でもない。
あなたを超えたという意味でのお辞儀なのだ。
超えなければジェニーは決してお辞儀など、しないはずだから。

痛みを抱え、それを憎しみに変え、
他人を傷つけるという愚かな行為をしてしまう刑務所の人々。
それはジェニーだけではなく、
友人の敵を討つためにジェニーの手を燃やそうとしたり、
傷つけられた復讐のためにジェニーからピアノを取り上げたり、、
しかし、ジェニーは、そんな負の連鎖からも最後には抜け出せたようにも感じる。

4分間の演奏により、未来を掴んだ少女を描いた映画。
* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
No.722 / タイトル や行 /  comments(2)  /  trackbacks(1) /  PAGE TOP△ 拍手する
COMMENT TO THIS ENTRY
- from YAN -

ヤンさん、こんにちは!

傷とか痛みとかがすごく多くて、
とてもピアニストというタイトルから想像がつかないような、
激しく荒々しい物語でしたね。

トラウデさんは、絶望ももちろんありますが、
恋人を裏切ってしまった罪の意識も大きくて、
音楽だけに殉じて生きてきたように感じました。

主人公とトラウデは、なかなか理解し合えず、
唯一、ピアノによって分かち合えたようですね。
ラストには未来を掴むという希望が感じられて良かったです。

2010.07.13.Tue / 17:56 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from ヤン -

YANさん、こんばんわ。

毎度の遅レスで、すいません。
荒々しくも痛々しい映画でした。
二人共に自分の感情の処し方が分からず、
ぶつかり合っていた故の激しさであり、痛々しさのように見えました。

トラウデさんは、絶望、罪の意識、そして、この世に対する呪いと、
かなり複雑な感情を抱き、それ故にこの世界とは距離を置いた生き方を
していたようにも思えます。

ラストは、確かにジェニーは未来を掴みました。
それによりトラウデも未来を掴んだと思いたいのですが、
なかなかに、それは難しそうなラストのように感じました。

それじゃ、また。

2010.07.17.Sat / 23:24 / [ EDIT ] / PAGE TOP△

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