空気人形  
2009.12.31.Thu / 20:27 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。




この世界に生んでくれて
ありがとう
なぜなら
それでも
この世界は美しいから


生命は、それ自身が一つとして完結はしてはいない。
それは、人がそれを意識してはいないとしても。
誰かに自分の欠如を満たしてもらい、
誰かの欠如を自分が満たすことで成り立っている。
けれど、この世界はとてもゆるやかに構成されていて、
補完しあう相手に対してさえ、
無関心や、時に疎ましく思えることも許されている。
だから、時にこの世界は、見方を誤れば、
残酷で無慈悲、とても醜く住み難いように見えてくる。

心を持ってしまった人形。
この世界に触れて他者と繋がりたいと考え、
他者から満たされ、他者を満たしたいと願う。
しかし、それは残酷にも失敗してしまう。
ゆるやかに構成されているが故に、沢山の矛盾を抱えた、この世界。
それでもこの世界は美しい。
なぜなら、そんな想いを抱えた彼女の息で満たされているから。
そう、想像することが出来る、この世界。
それは、ゆるやかに構成されているからこその美しさ。
彼女の目を通して見た、そんな、この世界の美しさを描いた映画。



「持ってはいけない心を持ってしまいました。」
心を持つことは、果たして幸せなことなのか?
心を持った為に嘘をつく。
心を持つと切なくて苦しい。
しかし、心を持つと世界は新鮮だ。
全ての体験が、輝いて見える。
彼女の持つ心が、そう世界を見させてくれる。


自分は空っぽで空虚な代用品。
しかし、空虚を抱えているのは自分だけではない。
生身の人間を愛せない男。
過食症のOL。
老いに怯える受付嬢。
話し相手を求めてさまよう老婦人。
家族に見捨てられたレンタルビデオ屋の店長。
恋人に死なれたのだろうか、心に空虚を抱える純一。
そんな空虚さを満たしたい、しかし方法がわからない人々。
しかし、空虚を抱えていても人は生きてゆける。
代用品であるはずの空気人形の冷たい手からは、
暖かさを感じることができる。
もし、皆に同じくらいの想像力があるのであれば、
自分の欠如を満たしてくれる人の存在を、そして、
自分が誰かの欠如を満たしている存在であることを想像できるであろう。
そんな想像力があれば、この世界はずいぶんと住み易い世界になる。


昔は彼女がいて、今はいない純一。
死んでしまったのか、別れてしまったのか?
しかし、彼が感じているのは、この世界の儚さ、もろさ。
だからこそ、純一は、生と死を征服したかったように思える。
しかし、そんな屈折した感情が自らに死を招く結果となってしまう。
本当は、純一の空虚さを満たしてあげたかった空気人形。
想いは純粋であった。単に方法が間違っていただけなのだ。
時に、この世界は、とても残酷だ。


誰かに生まれきた事を祝福してもらうこと。
誰かに必要とされる存在になる事。
それが、空気人形が抱えている欠如。
空気人形が最後に見た夢。
彼女の願望だけが、彼女に、その夢を見させたわけではないのだろう。
彼女と知り合った多くの人々の存在が、彼女に、その夢を見させたのだ。
それは、当人たちが意識していないとしても。

彼女が吹いた最後の息が多くの人を満たしてゆく。
彼女が吹いた息が、
老婦人とお爺さんを巡り合わせる。
過食症のOLに窓を開けさせる。
それは、当人たちが意識していないとしても。

純一を満たしたいと願った空気人形。
しかし、それは失敗してしまう。
この世の中は、そんな残酷で無慈悲なすれ違いに満ちている。
そして想像力が無い人間にとって、この世界はとても住み難い。
そんな様に、ゆるやかに構成されている、この世界。
しかし、この世界は、それでも美しい。
たとえ彼女が気付かなくても、多くの人の存在が彼女を満たしている。
たとえ彼女が気付かなくても、彼女の存在が誰かを満たしている。
そんな想いを抱えた彼女の息で満たされている。
そう、想像することが出来る、この世界。
それは、ゆるやかに構成されているからこその美しさ。
だから、この世界は、それでも美しい。


空気人形@ぴあ映画生活
* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
No.750 / タイトル か行 /  comments(2)  /  trackbacks(2) /  PAGE TOP△ 拍手する
COMMENT TO THIS ENTRY
- from YAN -

ヤンさん、こんにちは!
やっとこれを観る事ができました。
とっても心に残るいい作品ですよね~!
ヤンさんにとって昨年のナンバー1も納得です。

空気人形を通して、
人間の残酷で無慈悲で醜い世界が浮かび上がってきますが、
最終的には、それでもこの世界は美しいと
肯定していましたね。

とにかくペ・ドゥナさんが素晴らしく良かったです\(^▽^)/

2010.05.18.Tue / 17:42 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from ヤン -

YANさん、こんばんわ。

ペ・ドゥナさんは、本当に良い役者です。
いままで、いろんな作品見てきましたが、
この作品のペ・ドゥナさんも良かった!!
最近映画に出てなかったので、やっと見れたーって感じです。
この作品は、彼女の代表作の一つになるんじゃないかと、
思えます。

この世界の無慈悲さは、想像力の欠如から。しかし、
この世界の美しさは、想像力が豊かなため。
そんなことが印象的な映画でした。

それじゃ、また。

2010.05.19.Wed / 22:36 / [ EDIT ] / PAGE TOP△

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からっぽな“心”にふわりとふりかかる質量が、 無垢な魂のように哀しげに愛しげに漂う。 刹那な世界に拾い集めた、きらきら光るものたちを並べて。 『空気人形』 2009年/日本/116min 監督・脚本・編集:是枝裕和 出演:ペ・ドゥナ、ARATA、オダギリジョー...
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