グラン・トリノ  
2010.01.14.Thu / 21:10 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。






人の命はとても大切であり、それは何事にもかえられない。
暴力では、何事も解決しない。
それらは、誰しもが知っている真理。
しかし、人は簡単に、その真理を忘れてしまう。
それは、憎しみに心が囚われるから。
そして、人の生の尊さを実感として感じる機会があまりに少ないから。
だから人は争いを選択し命を奪う行為を行ってしまう。
そして、命を奪った後に、それが間違いであったと気付く。激しい後悔と共に。
人の生と死がなんであるかを知っていた男。
そんな男が若者達に自らの境地を伝えようとして創った映画。




妻に先立たれ、一人孤独に生活するウォルト。
差別用語を連発する、一見するといけ好かない頑固じいさんだ。
しかし、ウォルトは決して差別主義者でもなければ、
争いごとが好きだというわけではない。
他者と自分自身が大きく違うことを、強く意識し、
その差異故に争うことを避けるため、
他人を強く突き放している男のように感じる。
突き放された他人は、ウォルトに直接喧嘩をすることもなく、
陰口だけをたたき、しかし、今後は彼に近寄らないように心がける事になる。
そうやって、実はウォルトは身の回りに平穏を保ってきたように感じる。
自らが孤独となるという代償と引き換えに、、、
隣人を黄色だと差別してきたウォルト。
しかし、隣人の中に自分と等しいものを見つけた時、
彼らと徐々に親しくなっていったのだろう。
荷物を落とし困っていた隣人を助けたタオ。
今時の若者には珍しい親切心。

スーに聞かされた民族の話。
好き好んでこの場所に住んでいるわけではない。
国を追い出されて、住む場所を他人に指定された。
いわば、彼らも戦争の犠牲者なのだ。
そんな事情を知った時、ウォルトにとっては、
彼らは侵略者では無くなったのだろう。

タオに男の生き方を教えるウォルト。
すべては順調に行くはずだった。
しかし、不良たちがタオの邪魔をする。
それを脅して辞めさせようとしたウォルト。
しかし、脅しが暴力を生み、望んではいなかった被害者を生んでしまう。

ウォルトが朝鮮戦争に派兵された時、
彼は敵とはいえ、年端も行かない若者を自らの意志で殺してしまった。
多分、仲間を殺され憎しみに駆られてのことなのだろう。
けれど、それは虚しいだけ。暴力は暴力しか生まない。
この時、ウォルトは悟ったはずだったのだ。
だから争いから身を避け続けてきたのだ。
睨み付け、脅し、銃を突きつければ争いごとは避けられると勘違いしていた。
しかし、暴力は暴力しか生まない。
彼が脅しを掛けなければこんな事にはならなかったはずだ。
ウォルトは、激しく自らの行いを後悔し、呪ったのだろう。

本当の平穏は、拒絶することでは生まれない。
確かに自分と他人とは考え方や感じ方が違う。
しかし、似たようなところも存在するのだ。
そして、そこから分かり合えることもできるのだろう。
だからこその懺悔。息子たちに、
今までの自分の態度を心の中で謝ったのだろう。

そして、ウォルトが最後に取った選択。
これにはいろいろな意味が込められていると感じた。
タオやスーに命の大切さを教えたかった。
決して彼らの人生を自分のように血に彩られた後悔で押し潰させたくは無い。
ウォルト自身も、もう、誰も殺したくは無い。たとえ不良であったとしても。
なぜなら自分は生の意味と価値を深く理解しているのだから。激しい後悔とともに。
そして、これは懺悔でもあるのだろう。
昔、戦争とはいえ、自らの意志で殺してしまった人々に対する懺悔。
そして、今また、暴力で解決しようとした自身の行いに対しての懺悔なのであろう。

私は余りイーストウッドが主演した映画を見てはいませんが、
このような頑固者の役は、イーストウッドには十八番の様な気がします。
そして、イーストウッドが過去に演じてきた役ならば、
最後は不良たちを倒して事件を解決するはずでした。
しかし、この映画のラストの選択。
典型的な役を演じたイーストウッドが、最後の選択だけは従来どおりではなかった。
そこには、深い意味が込められていると感じました。
それこそが、彼の役者としての総決算であり、
過去の作品に対する贖罪なのではないのでしょうか?

人の生と死がなんであるかを知っていた男。
そんな男が若者達に自らの境地を伝えようとして創った映画。
* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
No.754 / タイトル か行 /  comments(2)  /  trackbacks(1) /  PAGE TOP△ 拍手する
COMMENT TO THIS ENTRY
- from YAN -

ヤンさん、こんにちは!
イーストウッドの頑固親父ぶり、とっても良かったですよね!

ラストの締め方は、以前にやってきたパターンと異なっているだけに
とても深い意味があるなあと、私もヤンさんと同じような事を思いました。
まさに役者としての総決算となるラストです。
素晴らしいメッセージを残してくれましたね。

2010.01.15.Fri / 16:58 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from ヤン -

YANさん、こんばんわ。

どんなに悪態をついていても、
年季が入っていて、憎めませんね。
イーストウッドの頑固親父ぶり。

もう、イーストウッドは似たような役は、当然できませんでしょうね。
この映画を否定するような行動をとる役はできませんし、
同じ選択をするような役もできません。
まさに最後の手段で痛烈にメッセージを残したんだと思います。

それじゃ、また。

2010.01.17.Sun / 21:57 / [ EDIT ] / PAGE TOP△

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