HELLO
この新しい世界に
人の歴史は殺戮の歴史。
自身の欲望の為に人は人を殺してきた。
それは、ウィルスに感染する前でも。
そして、ウィルスに感染した人を目の前にしても。
人間は冷酷で残忍な生き物なのかもしれない。
しかし一方で人間は暖かな心を持った生き物でもある。
そんな側面に、希望を見出したい。
それが僅かな希望であっても。
そんな希望を描いた映画。
どちらに優劣があるというわけではないが、
ゾンビ映画も、ダニー・ボイル監督が撮ると、
他の作品とは、違って見えてくる。
荒廃したロンドン、美しい自然、雨の中に鳴り響くサイレン。
とても印象的なカメラワークも素晴らしい映画。
即効性のウィルスで凶暴化してしまった人々。
廃墟のロンドン。
そんな最悪の状況下で28日ぶりに目覚めるジム。
暗くなっては出歩かない。
一人では行動しない。
親しき者といえど、感染したら、ためらうことなく殺すこと。
それは、自分自身が生き残るため。
利己的になり、親しき者でも殺さなければ生き残れなくなってしまった、この世界。
そんな厳しい状況をジムに諭すセリーナ。
偶然知り合った親子。
彼らは私たちのお荷物になるかもしれない存在。
であるならば、切り捨てるべきだ。
そう、最初は考えてきたセリーナ。
しかし、彼らは逃避行の最中に本物の家族の様になる。
父親であり、息子であり、妹であり、姉であり、
そんな風にお互いに親近感と連帯感を持つようになってくる。
しかし、それは長くは続かない。
目的地に到着したが、父親役が死んでしまい、
安全な地にたどり着けたにもかかわらず、
「もうダメ、もうお終い」と嘆くセリーナ。
信じかけていた人との絆が途絶えたからこその嘆きなのだろう。
人は人を殺し続けてきた。
それは、ウィルスが流行る前から。
部下達に未来を与え、今の体制を維持する為に、女性達を要求する少佐。
空を飛ぶ飛行機が見える、外には希望がある筈なのだ。
しかし、自らの権力を守るためなのだろうか、少佐は今にこだわる。
そして、この非常時に、いや娯楽も何もない非常時だからこそなのだろうか、
欲望に走る軍人達。そして始まる殺し合い。
やはり、人はとても残酷な生き物なのだろう。
セリーナたちを守るためとはいえ、冷徹で残酷になってしまったジム。
一見するとジムもウィルスに感染したかのようにも錯覚できる。
ジムもウィルスに感染した、と感じたであろうセリーナは、
しかし、ジムを殺す瞬間に、躊躇する。
頭では分かっている、ジムを殺さないと自分が危ない。
しかし、心では分かっている、自分はジムを殺すことは出来ないと。
ためらうセリーナの姿に人間の人を大切に思いたい気持ちが溢れている。
最後に助けを呼ぶ、3人。
その呼びかけは、HELPではない。
HELLOに託された想い。
自分たちが、新しい世界へに踏み出したいという気持ちに、
溢れたからこその言葉なのだろう。
極限状態であっても他人を大切に想う気持ち。
そんな人の持つ希望を描いた映画。