重力ピエロ  
2010.05.20.Thu / 22:10 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。






突然の不幸により辛くて重い重力を背負わされた家族。
そんな重力に打ち勝ちたい。
その方法を懸命に模索する兄弟、そして父親。
重力に打ち勝とうとした家族を描いた映画。

そして、人の罪とは、何によって裁かれるべきなのか?
そんなことも印象的な映画。



奥野一家が持つ重力。
それは、次男である春が、レイプ犯の子供であるという事。
春は、そして、泉水でさえ、
父親が告げる前から、その事実を知っていたのだろう。
そして苦しんでいたのだろう。

「俺たちは最強の家族だ」
確かに奥野一家は強い愛情で結ばれている。
しかし、彼らが持つ重力故に、
儚い脆さや危うさを隠し持っているように感じる。
重力の存在を知っていた春。そして、泉水。
二人は、共に相手に多くを語らず、それを自分の力だけで処理しようとする。
それが、とても危うく脆く感じてしまう理由の一つなのだろう。
「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」
自分のガンのことを陽気に家族に伝えた父親。
陽気に伝えれば、相手の深刻さは少しは和らぐだろう。
そして、悩みや苦しみを共有できれば、それに耐えることもできるのだろう。
母親が死んだ夜、事実を春と泉水に伝えた父親。
二人は、すでに知っていたのだから、わざわざ話す必要も無いようにも感じる。
しかし、あえて父親が話した理由は、
二人に語ることにより、二人でこの重力を乗り切って欲しい、
そう考えたからだろう。
それこそが父親が考える最強の家族なのだろう。

「遺伝か環境か」
放火の犯人が春であることは、
多くの人が最初の方から感づくことだと思う。
それ故に考えてしまう。
春が放火をしてしまうのは、異常な父親から受け継いだ遺伝の為なのか?
遺伝は環境よりも強いのか?
しかし、映画の後半、春の動機が明らかになった時、
それが杞憂であることが分かる。
火で呪われた遺伝と奴の犯罪を浄化したい。
そして、奴との関係を永遠に断ち切りたい。
しかし、それ以上に兄に自分を支えて欲しい。
優しさ故に直接告白はできない。
だからこそ、こんな回りくどい方法を取ってしまったのだろう。

「春が2階から落ちてきた」
映画の冒頭、二階から飛び降りる春。
何も同級の女学生を助けたいわけではない。
レイプという卑劣な犯罪は許せない。
この頃から、すでに春は事実を知り、一人で苦しんでいたのだろう。
重力に負けて落ちざるをえない春。
しかし、それを常に支えてきたのは兄、泉水。
春、一人では落ちるしかない。
けれど、たとえ落ちても兄が支えてくれてきたのだろう。

「おまえは悪い事をした」
父親は最後に事実を知る。
一人で苦しみ悩んできた春が、
最後には兄弟二人で重力を乗り越えようとしたことを。
犯してしまった罪は消えない。
新しい重力として二人に、のし掛かるのかもしれない。
けれど、苦しみを分かつことができた兄弟。
本当はもっと早く自分にも泉水にも語って欲しかった。
しかし、やっと父親が理想とした最強の家族はここに完成したのだろう。
それでも父親は二人のしたことを悪いことだと諭す。
しかし、それ以上は何も言わない。
二人のしたことを悪いことだと認めたうえで、

「自分で考えろ」

と、最強の家族となった二人に、二人で乗り切ることを期待したのだろう。


「お前は俺に似て嘘が下手だ。」
自分と似たこと、それ以上に、立派に育ったことが
嬉しそうだった父親の笑顔。
多分、今まで色んなことを心配してきたのだろう。
それでも、立派に育った、嘘をつく事が下手なくらいに。
遺伝よりも家族が創った環境が勝ったということなのだろう。
重力に打ち勝とうとし、打ち勝った家族を描いた映画。



果たして春は自首すべきだったのか?
たとえ自首して刑を受けても罪は消えない。
どんなことをしても人を殺したという罪は永久に残る。
極悪人に描かれた葛城にも、その死を悲しむ者がいるかもしれない。
だから自首したとしても、罪は決して消えはしないのだ。

他人に刑を決めてもらい、その刑罰を受ければ、
心の呵責は和らぎ、心の重力も少しは軽くなるのかもしれない。
その後の二人は描かれないものの、自首をしない、という選択肢は、
一生重荷を隠し持ち、背負いこむという意味で、二人にとっては、
自首よりもさらに苦しく重い選択肢になるように思えてならない。
罪を償うという意味でも、罪を裁かれるという意味でも。
それでも、二人でそれを乗り越えていくと決めたのだろう。
それが良いことなのか、悪いことなのか、私には分からない。
人の罪とは、何によって裁かれるべきなのか?
そんなことも印象的な映画。
* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
No.794 / タイトル さ行 /  comments(2)  /  trackbacks(1) /  PAGE TOP△ 拍手する
COMMENT TO THIS ENTRY
- from YAN -

ヤンさん、こんにちは!
これも観終わってから、いろいろ考えさせられる作品でしたね。

>人の罪とは何によって裁かれるべきなのか?
普通だったら「法」と言うところだけど、
法で裁き切れない人もいますからね・・・
この映画では渡部さん演じたあの男。
反省のない言い草を聞いたら、法の無力さを感じます。

それでも春も法で裁かれるべきだと思うんですよね。
黙っている事は心の重力が重くなる事のような気がします。

どちらにしても、私には重力に打ち勝ったとは
感じられなかったなあ・・・
重苦しさが残りました。

2010.05.21.Fri / 17:48 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from ヤン -

YANさん、こんにちは。

確かにいろいろ考えさせられる映画でしたね。

最初は私も、春は法で裁かれたほうが、
彼自身の為でもあるとは思いました。
それでも、自分たちでそのように決めたのであれば、
後から考えれば、ありなのかな、と思えます。
彼らは自身がした事をキチンと理解できているのでしょうから。
単に、法に裁かれることを恐れて逃げているわけでは、
ないのでしょうから、、、。ちょっと危険なかんがえでしょうかね?

多分、渡部さん演じたあの男、を殺してしまうという選択を、
したことでは、重力に負けたと最初は感じました。
それでも、「遺伝か環境か」「最強の家族」
「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」
などを考え合わせると、彼らは一つの重力を乗り越えた、
とも思えます。
父親の最後の笑顔、実は兄がいなければ何もできない弟。
それらも印象的な映画でした。

それじゃ、また。

2010.05.23.Sun / 17:24 / [ EDIT ] / PAGE TOP△

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