ベニスに死す  
2012.03.08.Thu / 20:31 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。




それは
悪魔の悪戯か
神々の試練か


究極の美。
その美しさに虜になってしまった男。
けれど、その美しさを眺めることしか、できはしない。
それは永遠に手に入れる事が出来ない、究極の美。

究極の美とは、
芸術家が心を込めて作品に向き合った結果であるべきはずではないのか?
気高い精神による、禁欲、勤勉、日々の鍛錬で、
その道を極めた人のみが生み出せる作品であるべきはずではないのか?

しかし目の前にある究極の美は、
偶発的で、自然発生的で、若さ故の美しさ。
そして通俗的ですらある。
きっと、どんなに努力をしても、
自分のような凡人には、生み出すことができない美しさ。


コツコツと積み重ねてきた自身の人生。しかし、なすすべなく、
その崩壊を止める事も出来ず死んでいった男。

ただ、見ているだけしかできず、死んでいった男。
その美に憧れ、愛でることができる喜び。
しかし、生きてきた人生を否定される哀しみ。
それでも彼は幸せのうちに死んでいったのだろう。
それはとても残酷な矛盾。
生きることの残酷さが印象的な映画。





音楽家で高名な指揮者である、グスタフ。
かなり神経質で完璧主義者のような印象をもつ男。

グスタフは、避暑地に選んだベニスで究極の美に出会う。
そして、魂を奪われてしまう。

彼の作曲家としての心情。
それは、崇高で究極な美は、芸術家たちの弛まない努力によって生み出される。
だからこそ、彼は生涯を音楽に捧げるように生きてきた。

しかし、目の前にある究極の美は、自然発生的で偶発的。
芸術家の努力など関係ないところで発生した美しさ。
それでも、彼は、その美に魂を奪われ、
その美しさを否定することなどできないでいる。


究極の美と崇高な精神。
崇高な精神こそが究極の美を生み出すはずだった。
そう信じて作曲活動を続けてきた。
けれど、そんなものなど関係がないところで生まれ出た美しさ。
それでは、崇高な精神とは結局のところ平凡ということなのか?
生み出す芸術品の美しさと作者の精神は、まったく関係がないのか?

作曲に禁欲的に取り組んできたグスタフ。
しかし、彼の回想によると、風俗に通った経験があるらしい。
しかも、その時の経験は彼にとっては苦々しいものでもあった。
その苦々しさは、彼の信条に反する行為がもたらしたものなのだろう。
けれど、その苦々しさの先に、実は美を生み出すなにかが存在するのか?


今までの自身の生きる上での心情を否定されてしまった。
それでも、彼は、その美に魂を奪われ、
その美しさを否定することなどできないでいる。


一度は、グスタフはベニスを離れる。
それは、ベニスの熱さ故に。
しかし、本当は、自身を破滅に導くであろう究極の美に決別をし、
自分らしさを再び取り戻すためであったのだろう。
けれど、偶然の悪戯か、本人の密かな希望の為なのか、
再びベニスに戻るグスタフ。
その顔はとても晴れやかで嬉しそう。


徐々にベニスにはびこるコレラ。
それはきっと、老いの象徴なのだろう。
誰にも避ける事が出来ない死の象徴なのだ。
そして、若さとは、老人がどんなに憧れても手に入れる事が出来ない事の
象徴なのだろう。
それは、あたかも、凡庸な芸術家がどんなに鍛錬を積んでも届かない美しさの
象徴なのだろう。

死ぬと分かっていた。けれどベニスを離れられない。
身の破滅と知っていた。けれど憧れを止められない。
自身が積み重ねてきた人生の生き方が否定され崩壊されたとしても。

ただ、見ているだけしかできず、死んでいった男。
それでも彼は幸せのうちに死んでいったのだろう。
それはとても残酷な矛盾。
生きることの残酷さが印象的な映画。
* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
No.970 / タイトル は行 /  comments(3)  /  trackbacks(0) /  PAGE TOP△ 拍手する
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- from YAN -

ヤンさん、こんにちは!

この映画の内容はかなり忘れてしまいましたが、
究極の美として登場する少年役のビョルン・アンドレセンは
しっかりと記憶にあります。
透明感のある中性的な美少年でしたよね~★

主人公にはない若さ・美しさを見せつけるような
ある意味残酷な振る舞いをしてたような・・・
懐かしい映画です!

2012.03.12.Mon / 16:46 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from ヤン -

YANさん、こんばんわ。

多分、若い時に見たら、ビョルン・アンドレセンの
美しさや、ベニスの夏のけだるさが印象に残ったかもしれません。

ですが、ある程度年とってから見ると、人生の残酷さが印象的でした。
この主人公も、信念を持って芸術に打ち込んできたのに、
自分が創って来た作品以上の美しさを見せられ、
否定もできず、自身の人生の崩壊を止めることもできない、、、

人生はとても残酷、そんなことを感じました。

それじゃ、また。

2012.03.13.Tue / 22:09 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from 就職活動 -

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。

2012.11.09.Fri / 01:46 / [ EDIT ] / PAGE TOP△

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