春との旅  
2012.03.29.Thu / 21:17 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。






好きだった者同士。
愛していた者同士。
しかし、離れ離れとなって暮らさざるをえないでいる。

ウマが合わなかったから。
今まで身勝手に振舞ってきたから。
環境が、経済事情が、許さないから。
共に暮らせば甘えてしまうから。
過去の過ちを許すことができないから。
他人と一緒に暮らすのは難しいから。


老後の問題を描いた映画かもしれない。
家族の問題を描いた映画かもしれない。
しかし、それ以上に心に残るのは、
人と人とが人生を重ねるということ。

人は愚かしいが故に一緒に暮らすのが難しい。
それでも、
共に暮らすことができるであろう人を見つけられたら、
共に暮らしていいと思える人を見つけることができたのなら、
それはとても幸せなことなのかもしれない。
そんな幸せの中でならば死んでも構わない。

人と人とが人生を重ねる。
愚かさ故の哀しみと、深い愛情と覚悟故の美しさ。
人と人とのつながりの奥深さを描いた映画。




がに股で垢抜けない服装。
どこから見ても田舎育ちがわかってしまう少女、春。
しかし、祖父譲りの頑固さを心に秘めた女性。

頑固で喧嘩っ早い祖父、忠男。
しかし、人懐っこくて甘えん坊、どこか憎めない男。

そんな祖父と孫娘が、祖父の住む場所を求めて旅に出る。
しかし求める場所はどこにもない。
忠雄の兄、重男は長男なのに婿養子に入った男。
自分を頼ってくれた弟を助けたい。
たとえ、悪態をつくような男でも。
けれど、自分の身さえままならない、現状。

重男が最後に真実を語ったのは、
誤解されたまま別れたくはなかったからなのだろう。
たとえ、情けない自分が知られてしまうことになろうとも。
これが、多分、最後の別れになるであろうから。
それは、たとえウマが合わなかったとはいえ、
やはり兄弟故のつながりがあればこそ、なのだろう。


末っ子で父母に甘やかされて育った男、行男。
その甘さ故か、自分のものではない罪を背負って務所暮らしをする男。
行男は良い奴だ。義理を忘れず身を持って恩に報いたから。
けれど、長い不在に疲れてしまった内縁の妻。
それが男の身勝手さということなのだろう。

務所暮らしにあっても内縁の妻に年賀状を欠かさないように依頼した行男。
それは、やはり兄弟故のつながりがあればこそ、なのだろう。


旅館を経営している姉の茂子。
一人で逞しく、この不況を生き抜いている女性。
だから、忠男にも強く迫る、一人で生きろ、春の人生を犠牲にするな、と。
それを忠男は表面的にしか理解できていない。
それは、今まで甘えて育ってきたから。
多分、撒き割りでも、何でも、その気になればできたかもしれない。
けれど姉とは暮らせない、生き方を変えなければここには住めない、
そう考えたのだろう。

茂子が忠男に諭したのは、なにも忠男が憎いからではない。
逆に、忠男にも充実した最後を迎えて欲しいから。
それは、やはり兄弟故のつながりがあればこそ、なのだろう。


昔は羽振りが良かった。しかし、今は落ちぶれてしまった道男。
彼は、とてもプライドが高い男だ。
そのプライドの高さ故なのだろう。
忠男に頼られても、何もすることが出来ない、悔しさ、情けなさ。
そんな情けない気分が逆に忠男に悪態をつく結果となってしまう。
けれど、本心では、忠男を助けたいと思っていたのだろう。

最後に忠男と春にスイートルームを用意する道男。
道男のプライドの高さからだけではないのだろう。
せめて仙台という都会に来たからには、贅沢を味わって欲しい。
そんな想いもあっただろう。
それは、やはり兄弟故のつながりがあればこそ、なのだろう。


姉に一人で生きろ、と言われて、その気になった忠男。
けれど、仙台での旅館探しでは、我儘を言いたい放題。
しかし、最後に訪れた義理の息子の妻の提案を、忠男は断る。
この時の忠男は、
他人と他人とが一緒に住む事の難しさを理解出来ていたからなののだろう。


兄弟というつながりがあり、誰もがきっと忠男を助けたいと思っていた。
どんなに甘えん坊で我儘で悪態をつく男であろうとも。
春が父親に会いたかったのは、そんな関係が羨ましいと思ったからだ。
けれど、会ってみてわかった事は、忠男と同じだ。
人と人とが一緒に生きる事の難しさ。
それは、お互いが共に住みたいと考えていたとしても。


最後には、祖父の面倒を最後まで見る覚悟を決めた春。
確かに自分の人生を棒に振る結果になるかもしれない。
けれど、この旅で出会った多くの人々。
好きなのに、愛しているのに一緒には住む事が出来ない人々。
ここで祖父を見捨てるのは簡単だ。
けれど、将来に、大きな後悔と痛みを伴うことを、この旅を通じてわかったのだろう。
母が死んでからの5年の生活で感じた、共に生活することの苦痛と困難。
しかし、それでも一緒に居たいと感じたのだろう。


忠男は、最後には自分の居場所を見つけたのだ。
こんな自分でも共に暮らしてくれる人の存在を。
もう、十分。これ以上は何を望むことがあるだろうか。
忠男は最後には幸せな想いで旅立っていったのだろう。


人と人とが人生を重ねる。
愚かさ故の哀しみと、深い愛情と覚悟故の美しさ。
人と人とのつながりの奥深さを描いた映画。
* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
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