冷たい熱帯魚  
2012.06.07.Thu / 18:22 
「ネタバレ」あり。ご注意願います。






ロマンチストで心優しき男。
その優しさ故に一家の大黒柱としては心もとない存在。

そんな男が巡り合ってしまった最凶の男。
それは後戻りができない悪への道。
そして男は迷走を始める。

頼りがいがなく何も自身では解決はできないが、心優しい男。
行動力があり頼りがいはあるが、強引な男。
果たして家族にとっては、どちらが理想の父親なのか。

あるいは、家族というものは、
最初から存在していなかったのかもしれない。

最後には、
家族というものが虚像であったことを思い知らされた男。
そして、家族という虚像から開放された少女。

家族と、それを支えるべき父親。
しかし、それは幻ではないのだろうか、
そんなことを思わざるを得ない映画。




小さな街で帯魚屋を営む、社本信行。
優しくて、しかし、何もできない、何もしない優柔不断な男。
それ故に家庭に問題があっても何もしない、
それをただ我慢をするだけの男。
娘の万引きが縁で知り合った、村田。
自らの考えを強く持ち、行動力溢れる男。
それ故に押しがとても強い、一方的な男。
そして、お金の為なのか、自らの快楽の為なのか。彼は連雑殺人鬼。


娘を救ってくれたという理由もある。
けれど、社本という男は、嫌とは言えない男。
悪事に嫌悪を抱いてはいるが、
状況に巻き込まれては追い込まれ、
無理強いされれば断りきれない男である。


社本は彼なりに家族を愛している。
娘がグレた理由は理解している。
だから強く躾けられない。
妻がタバコを止められない事も分かっている。
自分が目をつぶればいいだけのこと。
強く意見できないのは、彼が優柔不断であると同時に優しすぎるから。
映画の冒頭では、かなりそれが否定的に描かれている。
社本も、それを良いことだとは思っていない。何とかしたいとは思っている。
だから、家族に負い目を感じてしまうのだろう。
「俺はお前に迷惑掛けっぱなしだ。」と。


殺人という嫌悪すべき犯罪に加担してしまった社本。
他人の事よりは、家族の幸せを選べ。
それは村田の理論。けれど負い目ゆえに受け入れてしまった。
家族の幸せの為にできることは、唯一これだけ。
社本は、家族への為に犯罪への嫌悪感と罪悪感にひたすら耐える。


村田は、社本の心理を見透かしている。
だから簡単に社本に付け入ることができる。
そして自らに負い目がある社本は村田に逆らえない。
なぜなら村田は正しいと思えるからだ。
社本自身の負い目がそう思わせているからだ。

多分、村田も最初は社本のような男だったのだろう。
村田は、それをどのように乗り越えたのだろうか。
映画では描かれてはいないが、
村田を虐待していた彼の父親と、殺人に手を染めるようになった彼の生い立ち。
その辺りに関係しているように思えてならない。
まさに社本が村田を殺したように。


俺を父親だと思って殴って来い。
社本が優柔不断なのは、父親を乗り越えてこなかったから。
この台詞からは、そう思わざるをえない。

村田が妻の妙子とデキていたと知った時、そして、
愛子を抱けと強制された時、
家族の為に耐えてきた社本は、ついに切れてしまった。
それは、守ろうとした家族が、
すでに存在しなかった事が分かってしまったから。

村田を殺し村田のように振舞う社本。
以前とは違い、家族に高圧的に振る舞い、
食事中に出かけようとした娘を殴る。
今までの憂さを晴らす様でもあり、
家族に裏切られた恨みをぶつけるかのようでもある。
しかし、それ以上に村田に感化されたからでもあろう。
何事も自分では解決できないと罵られた村田に。


家族に両極端に接した社本。
しかし、そのどちらも理想の家族、父親とは感じられない。

愛子という女性は、とても刹那的で依存症が強い女性だ。
自分に快楽を与えてくれる存在、そして強く命令をする存在には、
盲目的に従ってしまう性を持っている。
村田が彼女をそうさせてしまったのだろう。
何でも自分で解決する、仕切ってしまうという村田の生き方が、
愛子から考える力を奪ってしまったように思えてならない。
そして、娘を殴って躾けても、それは同じことなのだ。


一人で生きることができるのか?
社本は妻もろとも命を絶ち娘を家族から開放した。
その後の娘の台詞は唐突で、とても不自然に感じられる。
その台詞で観客をビックリさせたかったという意見もあるだろう。
だが、製作者サイドは唐突でも、
娘に、この台詞を言わせたかったように私には感じられる。
家族などというものは、最初から存在しないのであると。

家族と、それを支えるべき父親。そのあるべき姿とは?
しかし、そんな姿が存在するという考え自身、幻なのではないのだろうか、
そんなことを思わざるを得ない映画。


されど、、、
村田と関係を持ってしまった妻の妙子。
しかし妙子は、優柔不断ではあるが優しくてロマンチストの夫を、
愛していたように思える。
たとえ何も解決してくれないとしても。
村田は、それに気づかずに妻を殺し、自ら命を絶ってしまった。
とても救いのない映画。
けれど、妙子の夫への愛情にわずかに救いを感じてしまった映画。
そこに家族というものが本当はあったのではないか、と。
* テーマ:映画感想 - ジャンル:映画 *
No.996 / タイトル た行 /  comments(2)  /  trackbacks(2) /  PAGE TOP△ 拍手する
COMMENT TO THIS ENTRY
- from YAN -

ヤンさん、昨年話題だった邦画をご覧になりましたね!

社本が彼なりに家族を愛しているのは分かるんですが、
優し過ぎると言うのか、私にはふがいないだけの男に見えました(^_^;
だから村田のような男に付け込まれたんだと思ってました。

村田が最初は社本のような男だったというの、
私にはピンと来ないんですが、
村田が父親から虐待を受けていた事と殺人を犯すようになったのと
関連性があるのは臭わせていましたね。
父親を乗り越えられなかったのは社本じゃなくて村田自身ですよね。

最後の娘のセリフもビックリでしたが、
監督は、全てにおいて観客を驚かせたかった、
本作はそのための衝撃エンターテインメントのように思えました。

登場人物のキャラも変わっていて、
俳優さん達もそれに合わせた図抜けた演技で、強烈でしたね。

2012.06.11.Mon / 18:29 / [ EDIT ] / PAGE TOP△
- from ヤン -

YANさん、こんばんわ。

確かに社本は、ふがいない男なんだけど、
本当は何とかしたいんだけど、強く出れない。
優柔不断で、それは同時に優しすぎるから、
なんて私には思えました。

まあ、殺して黙らせたんだから、
村田は自分の父親を乗り越えることは永久にできなかったわけで、
社本は同様に村田を乗り越えられなかった、ということでしょうか。
そういう意味で社本が村田化したのは、当然の結末、というように思えます。

衝撃エンターテインメントですか、、、なるほど。
衝撃的である点は、そのとおりと思います。
エンターテインメントといわれると、、、難しいですね。
ストーリー的には、ジェットコースターのようで、
息つく暇も無く刺激満載の映画でしたから、
エンターテインメントとしては成功だったのかも。
それでも、監督は家族の問題を描きたかったように、
私には感じられました。

それじゃ、また。

2012.06.11.Mon / 22:22 / [ EDIT ] / PAGE TOP△

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2012.06.09.Sat .No517 / まとめwoネタ速neo / PAGE TOP△
勢いがあって刺激もある。 役者の熱演も素晴らしい! でも意外と衝撃は受けなかったな・・・(^^; COLDFISH 監督:園子温 製作:2010年 日本 出演:*吹越満 *でんでん *黒沢あすか *神...
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